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調査員のおすすめの逸品 No.15 縄文時代の丸木舟-尾上浜遺跡出土-

長浜市
尾上浜遺跡全景 (後方に葛籠尾崎がみえる)
尾上浜遺跡全景 (後方に葛籠尾崎がみえる)

個人的には専門分野ではまったくないのですが、平成19年の夏、そして今年の夏、滋賀県立安土城考古博物館において開催された丸木舟や琵琶湖の湖底・湖岸遺跡に焦点をあてた展覧会『丸木舟の時代』と『水中考古学の世界-びわこ湖底の遺跡を掘る-』の企画・担当の一端に名を連ねました。何故か、といえば、現在も整理調査に従事していることもありますが、平成元・2年度には、湖北町尾上に所在する湖底・湖岸遺跡である尾上浜遺跡の発掘調査の担当でもありました。尾上浜遺跡は琵琶湖の湖底遺跡の謎の一つ、葛籠尾崎湖底遺跡を望む場所にあります。
ということで、随分と前置きが長くなってしまいましたが、今回、その尾上浜遺跡の調査の中で、最も印象に残る縄文時代の丸木舟発見を巡る「思い出」をお話ししましょう。
それまで、ほ場整備・河川改修に伴う調査を担当していた私にとって、鋼矢板囲いで陸化して調査を行う尾上浜遺跡は、湖底・湖岸遺跡初挑戦の場でした。遺跡の内容としては、旧余呉川の河口付近に堆積した土砂から各時代の土器・木器が大量に出土する、つまり「遺物包含層」の調査でした。日々、とにかく、層位毎に土砂を掘り下げ、遺物を取り上げる、という作業の繰り返しでしたが、かれこれ湖底から3m近くにも掘下げたある日のことです。遺物がほとんど含まれていない土層を重機(バックホー)で掘り下げていると、何か引っかかるものがあります。近づいて見てみると、重機のブレードによってわずかに削られた個所が、今、切り倒された様に鮮やかで生々しい「木」でした。

出土丸木舟
出土丸木舟

第一印象は、湖底から3mも掘り下げていたにもかかわらず、「古い電柱かあ(残念)・・・」であり、現代の攪乱と早とちりしたのです。もう少し周囲を慎重に掘り広げてみると、長さが2m以上ある様でした。さらに、これが単なる丸太材ではなく、内側が刳り抜かれているようだし、先端は斧で加工されていることがわかりました。縄文時代の丸木舟についての知識は全くのゼロ。出土品も見たことがなかった筆者も、ここに至ってようやく「丸木舟??(疑惑・不安)・・・!!(驚愕)」となったのです。
そうとわかれば、調査の方針は決まりました。この丸木舟がどのような状態で、どの時代のものなのか、を明らかにすることです。調査の結果、この丸木舟は、長さ5.15m、幅55cm・深さ30cmを測り、縄文時代後期末頃に川岸に並行するように沈んだものであることが判明しました。県内出土の30例を超す丸木舟の中でも、最も残りの良い資料の一つです。その後、この丸木舟を参考に丸木舟の復元製作、実験航海を行い、そして今年の夏休みの乗船体験は好評でした。
「もの」として逸品であるだけでなく、その場での失敗や感動、さらには、文化財の活用にもうまく繋がった事例としても強く印象に残っています。

(小竹森 直子)

≪参考文献≫
・琵琶湖開発事業関連埋蔵文化財発掘調査報告書7「琵琶湖北東部の湖底・湖岸遺跡」滋賀県教育委員会・公益財団法人滋賀県文化財保護協会2003
・『丸木舟の時代』公益財団法人滋賀県文化財保護協会・サンライズ出版 2007
・第38回企画展図録『水中考古学の世界-びわこ湖底遺跡を掘る-』滋賀県立安土城考古博物館・公益財団法人滋賀県文化財保護協会2009
・『びわこ水中考古学の世界(仮題)』 公益財団法人滋賀県文化財保護協会・サンライズ出版 2010(刊行予定)

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