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調査員のおすすめの逸品 No.62 “冠”を被ったけったいな姿の人物たち ―関津遺跡出土絵画木製品―

大津市

大津市関津遺跡といえば、これまでの発掘調査で奈良時代から平安時代前期に大和と近江を最短距離で結ぶ「田原道」とその道路沿いに官衙などの建物が配置されていたこと、室町時代の大規模な港湾施設が整備されていたこと、また隣接する関津城の城主である宇野氏は大和を本貫地とする可能性があることなどが明らかとなっています。

絵画木製品(表:赤外線写真)
絵画木製品(表:赤外線写真)

そんな数多くの成果の中に中世の旧河道から出土した横幅13.1㎝、縦幅6.6㎝、厚さ0.9㎝の長方形のマツの板材があります。この旧河道や隣接する沼沢地からは、同時期の農耕具や祭祀具などの木製品をはじめ多くの板材や棒材の加工品が出土しています。その中の1点を紹介します。それは表面の加工も雑であることから、はじめは単なる板材と思っていましたが、取り上げて表面を水洗いしてみてびっくり!ただの板材ではなく、表裏に変わった格好の人物が墨で描かれているではないですか。
頭の中を思いめぐるのは、「中世の妖怪?お化け?鬼?」など、とにかく得体のしれないものをいろいろ想像してみました。少し方向違いかと思いつつも「餓鬼草紙」「地獄草紙」「百鬼夜行図」などに描かれた鬼や妖怪の姿と比較したりしました。

絵画木製品(裏:赤外線写真)
絵画木製品(裏:赤外線写真)

その描かれた人物を簡単に紹介してみましょう。まず、表面には4人の人物。欠損している右端の人物以外は、顔に目・鼻・口・耳が表現され(目がつりあがっているような)、帽子状のものを被り、手は腹の前で組み、V字状の襟が表現されています。腰には袴を付け、足が表現されていることからたった状態と考えられます。
反対の面には、二人の人物が。この姿か誠にけったいなのです。左側の人物は、角のような突起の付いた冠?を被っています(思い浮かんだのはウルトラマン)。右側の人物も何かを被っていますが、右目と口しか表現されていません。顔から下の表現は反対面の人物と共通しています。ただ、こちら面には「北方」と読める文字が記されています。

絵画木製品(実測図)
絵画木製品(実測図)

発掘調査の報告書をまとめるにあたり、中世の民俗史に詳しい先生のご意見を聞いたりしていく中で、ひとつの解釈として中世の道教思想に基づいて使われた札ではないかと考えるようになりました。道教思想の強い中国の雲南省では、古くから年中行事や儀礼の際に、呪いや魔除けのために道教の神像を木版刷りした紙を燃やす風習がありました。そのような信仰が何らかの形で、当時日本へ伝わったことが考えられます。地鎮のために「北方」や「南方」の文字も記されました。
この木製品に描かれた人物の姿が何を表しているかついては、当時中国の道教の神像を見たり聞いたりした人が、その風習を真似て描いたものではないかと考えています。なお、報告書でこの板材は、「絵画木製品」として紹介しています。
今後、類似した資料が出てきたりすれば、あらためてその性格について考えてみたいと思っています。いずれにしても、ほんとうに「けったいな姿の人物たち」です。

(吉田 秀則)

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