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調査員のおすすめの逸品 №282 微細遺物を探せ!-さまざまな「ざる」

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ウォーターセパレーションの道具-手前が金属製の各種サイズの「ざる」
ウォーターセパレーションの道具-手前が金属製の各種サイズの「ざる」

発掘調査では、様々な素材・状態・大きさのものが出土します。それらを可能な限り回収して調査・記録するのが私たちの仕事であり、そのためにはいろいろな工夫が必要になります。今回はその中から、微細な遺物を取り扱う場合に使う道具「ざる」を取り上げてみようと思います。
微細な遺物を探す場合に、最も頻繁に登場する道具が「ざる」です。「ざる」にも目の細かさで様々な種類がありますが、私たちの場合は目が1~2㎜四方程度のものがよく使用されます。

私が就職して最初に見た「ざる」を使った選別作業は、大津市の粟津湖底遺跡の整理作業でした。粟津湖底遺跡の調査では、貝塚を形成する土砂を大量に持ち帰っており、その中に含まれる動物や魚の骨、植物の種皮などを回収・選別して分析していました。この時の選別方法は「ウォーターセパレーション」と呼ばれる方法です。円筒形で金属製の目の細かさの違う「ざる」を重ね合わせた中に土砂を入れて、流水で土砂を破砕しながら中に含まれる微細遺物を浮上させ、回収していく方法でした。その作業の結果、すでに絶滅してしまった魚の骨が発見されたり、縄文時代の食生活を復元するための貴重なデータが得られたりと大きな成果があがりました。

ウォーターセパレーションの作業
ウォーターセパレーションの作業

自分自身の調査では、湖南市の針氏城遺跡の調査で選別作業を行いました。針氏城遺跡では縄文時代晩期の遺物が多く出土しましたが、その中にサヌカイト製の石器や大型の剥片(石器を作る素材になる、石材を薄く剥いだもの、あるいは石器を作る際にでる石くず)が含まれていたので、念のため周辺の土砂を採取して選別してみました。幸い山からの湧水で水は豊富だったので、プラスチック製の「ざる」に土砂を広げ、水を流しかけながら選別作業を行いました。この時には小さなサヌカイト剥片がたくさん発見できて、石器をこの場で製作していたことがわかりました。

このように手間はかかりますが、微細な遺物を探し出して分析することが、それまで知られていなかった情報につながることがしばしばあります。そのために常に細心の注意を払いながらの調査になりますし、場合によっては「ざる」を使わずに直接微細遺物を探すこともあります。かつて未盗掘の古墳の石室を調査するときに、微細遺物(例えば玉類や金製品など)が含まれているかもしれないから、ということで、同僚の技師と二人で、小さなティースプーン(!)を使って数日がかりで石室内の土砂を掘ったことがありました。結果、歯の残片かな?というようなものが1点見つかったのですが、これなどはいつものように「ざる」を使っていたら発見できなかったかもしれません。

プラスチック製の「ざる」-洗った土器などを乾かすときにも使います
プラスチック製の「ざる」-洗った土器などを乾かすときにも使います

大きな成果は日々の小さな積み重ねから。とても小さな遺物が私たちの歴史認識を変えることもあります。「ざる」は、その情報を拾い出すための「逸品」なのです。
(阿刀弘史)

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