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調査員のおすすめの逸品 №304 居酒屋から標本まで-標本物語①

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写真1  バラバラな骨
写真1  バラバラな骨

突然ですが、このバラバラに集められたもの(写真1)は一体何であると思いますか?
その答えは、ブタの4本足のうち、左後ろ足先のホネです。一本分の足先を構成しているホネの数はなんと、49個!このよみものを書いている私は入社一年目の新人です。大学では、主に遺跡から出土する動物骨の研究をしてきました。そこで今回は、私が作った標本の中で、思い出深い「豚足」について紹介します。
遺跡からは、土器や石器といった過去の人が作ったモノだけでなく、過去の人が食べた残りモノ、例えば動物のホネも出てくることがあります。それら遺跡から出土したホネが、一体、どんな動物のホネなのかを調べるため、最近まで生きていた動物の死体から標本を作製することが必要になってきます。

言うことはそう簡単ですが、身近な所で生き物のホネを集めることは簡単ではありません。

写真2 4本指の豚足
写真2 4本指の豚足

学生の頃、アルバイトでお世話になっていた方に相談したところ、その夜、焼き鳥屋へ連れて行かれ、席に着き、しばらくして運ばれてきたのが「トン足」でした。こうして、私は初めて「標本用?」のホネを得ることができました。食べ終えたトン足はお土産として包んでもらい、次の日に、さっそく標本づくり開始です。
標本の作り方は、ホネを土に埋める方法や、虫に食べてもらう方法、水に漬けておく方法などありますが、鍋で煮る方法が簡単にできるやり方として、オススメです。半日ほどコトコト煮込むと、ホネとホネを繋ぐ軟骨や、筋肉に付着している太い腱がホネから次第に外れてきます。何度か水を交換する途中で、歯ブラシやピンセットで残った肉や筋を取り除いてあげると、次第にホネがきれいになり、仕上がりがよくなります。
ホネだけになったトン足の標本を見ていくと、色々なことが分かります。
豚足の指先を数えてみると、マンガで表現されるような2本ではないことを発見できます。大きい指先が2本とその後ろに小さい指先が2本、合計4本があることがわかります!(写真2)
また、黒や茶色に変色した箇所は、調理する際に網の上で焼かれた際に火がホネに直接当たったことで、焦げついたことがうかがえます(写真3)。

写真3 焦げた骨
写真3 焦げた骨

さらに、ホネ本体(骨幹)とホネの端っこ部分(骨端)が外れており(写真4:矢印の部分)、これはまだホネが完成していない状態を示しており、成長途中にある子供の骨であることが多いです。

このことから、私はまだ大人になっていないブタの足を食べたということが分かりました。さらに、もう一歩専門的な内容に踏み込むと、指先を構成している各ホネの特徴や向きを観察することで、後肢なのか、前肢なのか、左側か、右側か、というところまで、明らかにすることが出来ます。
このように、遺跡から出土した動物のホネから、どんな種類の動物を、どこで捕えていたのか、どんなサイズを選んでいたのか、どんな利用の仕方があったのか、などなど、ホネから得られた情報を集めて、昔の人々の生活を解明するのが、「動物考古学」という学問分野になります。

もし、このよみものを読んで興味をもってくれた方がいたら、まずは豚足の標本からチャレンジしてみてください!(佐藤巧庸)

≪参考文献≫
盛口満・安田守 2001 『骨の学校-ぼくらの骨格標本のつくり方-』 木魂社

写真4 若い骨
写真4 若い骨
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