記事を探す

オススメの逸品

調査員オススメの逸品 第222回 ないものは自分で作れ!―自作スチーマーの話 前編―

その他
キムワイプ
真空凍結乾燥機からあがってきた木器(余分な樹脂が表面を真っ白にしている)
スチーマープロトタイプ
プロトタイプ・スチーマー(こうみえても保存処理用の機材です)
プロトタイプ メインホース取付部
ホースの取付部
プロトタイプハンドグリップ
作業時はここをもつ
圧力弁失敗
最も苦労して、結局失敗した圧力弁努力の痕跡

みなさんこんにちは。私たちの仕事は、外で汗流して泥だらけになりながら発掘調査するだけではありません。発掘調査で出土した土器や木器を整理して、発掘調査報告書にまとめ、刊行する仕事があります。報告書の刊行をもって発掘調査はやっと終了するのです。
整理調査の中に、「保存処理」という仕事があります。出土した遺物には、放っておけば粉々になってしまうものがあります。一見頑丈そうにみえる土器でも、大変もろいものもあります。そういう土器は、バインダーという水溶性樹脂を含浸させて丈夫にしてあげます。
今回の話は、保存処理の中でも厄介な部類に入る、木器処理中に使う道具の話です。木器は乾燥してしまうと、割れたり木っ端みじんになったりします。せっかくの残った古代の木工技術も、二度とみられなくなります。木器の保存処理の方法としては、樹脂の含浸(木器中の水分を樹脂に置き換える方法)、真空凍結乾燥(フリーズドライ食品を作るのと同じ方法)などが用いられます。いずれの方法も、処理機器に入れておけば勝手にできあがるわけではなく、まめに樹脂の濃度や乾燥具合なんかをチェックしないといけません。処理機器から出しても、表面は樹脂まみれで真っ白になってたりします。この表面の樹脂はお湯で簡単に溶けるのですが、真空凍結乾燥からあがってきたものは、できるだけ水分を与えたくないものです。せっかくパリッと乾いてるのに、仕上げでフニャッとしてしまうのは残念ですから。熱い蒸気をホワホワとやさしく当ててやるのが一番なのですが、そんなもの職場にはありません。
ある日、保存処理の技術を教えに来てくださっている元興寺文化財研究所の方が、自作スチーマーをもって来られました。圧力調整弁付の箱の内部にはヒーターが組み込まれ、断熱材が巻かれたホースの先端からホワホワと蒸気が出るものでした。しかも自作です。最高にかっこよくてスマートでした。「ないものは自分たちで作るんですよ」という一言が、私の製作意欲に火をつけました。
「スチーマーを作るからいろいろ買ってください」なんてことを急に職場にいうと、「何と何と何が必要なの?」といわれます。「イヤ~、やってみないと分かりませんので」などと言ってると却下されるので、とりあえず身近にある不用品をやりくりしてプロトタイプの製作に入りました。
製作するにあたっては、安全に作れて安全に使えるようにしなければなりません。だから火を使わずにお湯を沸かせるように、IHヒーターとヤカンを使うことにしました。ヤカンはお湯が沸くとピーピーいいながら蒸気が噴き出す、通称ピーピーケトルが最適かと。職場の倉庫をガサガサと探すと、埃まみれのピーピーケトルがでてきました。あとはこれに細いホースをつければいけるはず。ピーピーケトルの蓋をシリコンシーラントで接着して密閉し、注ぎ口にフラスコの蓋みたいな管付きのキャップをしてホースをつなぎました。一応形になりましたが、問題がひとつ。圧力をどう制御するか。圧力が強すぎたらブシューッと蒸気が出てしまいます。理想はホワホワの蒸気です。というわけで、圧力弁の製作にかかりました。ピーピーケトルの蓋にはツマミがついており、このツマミは樹脂製。これならドリルで孔をあけて、重い球形の何かを乗せれば弁になるはず・・・。理想はパチンコ玉なのですが、このためだけにパチンコしに行く気にはなりません(私は賭け事はしないので)。とりあえずは家に転がってたビー玉をのせてみました。全くダメでした。重さが足りないので、ビー玉の下から蒸気が出まくりでした。結局はどうしようもなくなって、多量のシリコンシーラントで孔を塞ぎました。
で、圧力弁がないまま使ってみることに・・・。全く問題なしでした。所詮素人の工作なので、接着があまい部分から適度に蒸気がもれ、適度に圧力がぬけてました。蒸気の吹き出し力をコントロールするのも、IHヒーターの火力を調整すれば良いだけのことでした。見た目はハンドメイド感たっぷりのカッコ悪いものですが、使い勝手は良好でした。
なんとか完成したプロトタイプですが、これを量産するには、もっとシンプルで確実な製作方法を確立しなければなりません。後のスチーマーmkⅡが量産機となるのですが、mkⅡの登場には5ヶ月ほどの月日が必要なのでした・・・。

重田 勉
Page Top