オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.30 う~んナイスバディ ―相谷熊原遺跡出土土偶―
連日寒い日が続いていた。霜柱は10cm近くまで成長し、四方八方から強風が吹く日々であった。時には1日中氷点下の日もあった。そんな日は現場で凍死するんじゃないか?と思うこともある。しかし不思議ことに、すごい遺構や遺物は、厳しい天候のときや、疲れ切った週末に出てくるものである。
この調査区もそうだった。直径8mのかなり大きい竪穴住居がみつかっていたのであった。こんな寒い時期に・・・。私が担当した調査で見たことがある大きな円形の竪穴住居といえば、弥生時代中期のものくらいだ。でも出土する土器や石器は、どうみても縄文時代のものだ。おまけに自分が知っている縄文土器とは全く違い、縄文土器らしい文様がない無文土器ばかり。日頃の勉強不足が悔やまれた。でも勉強不足ながらも、何だかかなり古いものではないだろうか、と感じていた。
出土遺物からしか時期を知り得ない。何としても時期を知る必要があった。竪穴住居から出てくる土器や石器が小片ばかりであることもあって、住居内の土を篩い(ふるい)にかけて土器や石器を探すことにした。
そんな時、土を振るっていた作業員さんが、小走りで私の方にやってきた。「こんなんが出たで!」と私に土器片のようなものを渡した。手に取って見ると、とても小さな土偶であった。「ウェ~!?」と変な声を出してしまうほど驚いた。
土偶を生で見たのは初めてだが、こんなにすべすべした綺麗な土偶は、本でも見たことがなかった。土偶は全高3.1cmと小振りでありながら、豊満なバストとキュッとくびれたウェストが表現され、造形美に優れたものであった。いわゆるナイスバディというやつだ。こんなのは見たことない。
現場作業終了後、私たちは本部まで戻り、縄文時代に詳しい職場の同僚に土器や土偶をみてもらった。同僚はじっくりと観察した後、「これ、古いんちゃう。」それまで笑顔だった同僚が、真顔で言った。私は顔が青ざめた。さらに、土器や石器をみて、「う~ん。見たことない土器やな。見たことない無文の土器としたら・・・」といいながら、同僚は書庫から報告書を引っ張り出してきた。その報告書は、縄文時代草創期の遺跡の発掘調査報告書であった。倒れそうだった。私にとっては縄文時代草創期なんて、まさに未知の世界である。
その後、確証を得るために、多くの縄文時代研究者の方々に遺構と遺物を見ていただいた。どの方も大変驚かれ、「縄文時代草創期でこんな立派な竪穴住居と土偶があるのか!すごい!すごすぎる!」と感動して帰られた。
やっぱり縄文時代草創期の竪穴住居と土偶なのか。がんばって賢くならねば・・・と思いながら今に至るのであった。
(重田勉)