オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.45 好きこそ物の上手なれ-東森さんの自作スコップ-
遺跡の調査に携わる者なら、誰しも自らが調査する遺跡で目の前に現れた遺物や遺構に感激したり、興奮したことがあると思います。私も約20年間滋賀県内の遺跡の調査に携わり、いろいろな遺構や遺物と出会ってきました。前回(第11回)は私が調査に携わった遺物のお話をしましたが、今回は、発掘調査で使う道具に感動したお話をしたいと思います。
私は現在、守山市の下長遺跡で発掘調査を行なっており、守山市のシルバー人材センターの方々に発掘の作業をしていただいています。現場に出ていただいている会員さんは、60歳代から上は80歳の方々までおられますが、皆さん非常に元気に作業をされています。
さて、調査が始まってすぐ、5月のある日のことです。遺構の検出を終え、遺構の掘り込みを始めようとすると、作業員さんの一人が見慣れない道具を使って、土を掘り始めました。それは柄の長い移植ゴテのような道具です(写真参照)。
私:ええ道具使かったはりますなあ。
作業員さん:これでっか。粘土のネチネチで硬いの掘るのにええんですわ。普通の移植ゴテやと歯が立たんやろ。ほんで力が入りやすいように柄が長くしてあるんですわ。
私:これどないしはりましたん。
作業員さん:自分で作りましたんや。ビニールハウスの骨をちょうどええ長さに切ってな、先をスコップみたいな形に開いてあるんや。
私:へえ!作らはったんですか!
作業員さん:まだ家に何本かあるで。よかったら持ってこよか。
私:ぜひぜひ・・・。
いや、びっくりしました。発掘の現場では、ベテランさんになると、自分で既存の道具に一工夫したものや、普通の生活用品で土を掘るのに便利そうなものを、「My道具」として持ってこられる方はいらっしゃるのですが、道具を一から作ってしまう方には初めてお会いしました。
この作業員さん、東森宣弘さんと言って御年80歳!この他にも色々な自作のMy道具をお持ちです。私は、この道具の使い勝手のよさもさることながら、「こんなんあったら便利やろな」と思ったものを自分で形にされる、東森さんのワザに感動しました。このことを東森さんに言うと、「色々考えて作んの好きやねん」とおっしゃいます。「好きこそものの上手なれ」とはまさにこのことです。
はじめは一本だったこの道具も、東森さんのご厚意で増備され、遺構を掘る作業になると活躍する、我が現場のちょっとした名物となっています。また、ワシも作ってみた、という作業員さんも現れました。
もし、この道具で商売をされる方がありましたら、東森さんにご一報下さい(笑)。
(岩橋 隆浩)