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オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品№378 【番外編】インターン実習生、人生初めての展示に挑む!

大津市

 今回のおすすめの逸品は【番外編】。当協会に、大学生3名がインターンシップ実習生として学びに来てくれました。実習では、人生初めての展示とその解説に挑戦してくれました。以下、その内容と成果の紹介を、大学生自身にしてもらいます。さてさて、どんな感じかな・・

◆     ◆     ◆

 私たちは京都橘大学の歴史遺産学科2回生の奥田歩武・本庄 唯・吉田琉凱です。2025年度京都橘大学文学部地域インターシップ実習生として、令和7年8月18日から22日の5日間、公益財団法人滋賀県文化財保護協会の仕事について実習し、学びました。

 実習は、『埋蔵文化財の調査手順』について、展示や展示解説を行うというものでした【画僧1】。そのミッション達成に向け、実際に働いている方々へ取材したり、実際に体験したりして、その結果をもとに展示と解説を作り上げました。その成果のうち、展示については、次の1)~4)のような形で実施したところです。

画像1 展示企画風景

1)展示名 

  公益財団法人滋賀県文化財保護協会と京都橘大学文学部歴史遺産学科の連携展示

  『発掘から調査報告書の刊行まで』

2)展示会場

  滋賀県埋蔵文化財センター ロビー

3)展示会期・会場での展示解説

  会  期 令和7年8月22日(金)からしばらくの間

  展示解説 令和7年8月22日(金)14:00~14:30

4)展示制作者

  2025年度京都橘大学文学部地域インターシップ実習生

  京都橘大学文学部歴史遺産学科2回生(奥田歩武・本庄 唯・吉田琉凱)

 以下では、展示には反映しきれなかった成果も含めて、学びの成果をご紹介したいと思います。

 

1.埋蔵文化財の調査手順

【現地での発掘調査】編

①表土掘削

 本格的な発掘調査の前に試掘調査が行われます。発掘調査をスムーズに進めるためには、調査対象地内の遺構の広がりや遺構が見つかる地層などの深さを、あらかじめ把握しておくことが重要です。そのために行われるのが「試掘調査」という先行調査です。

 その後行われる本格的な発掘調査では、この試掘調査で得られたデータをもとに、重機で慎重に掘り進めていきます【画像2】。

画像2 重機掘削

②遺構検出

 表土掘削が終わると、今度は「ガリ」と呼ばれる道具【画像3】を使って地面を丁寧に削ります【画像4】。遺構が掘り込まれた地層の土と、遺構に埋まっている土の違いを見極めていくためです。

画像3 ガリと箕(み)
画像4 ガリで地面を丁寧に削ります

 汚れた土をきれいに削り取った地面【画像5】を、調査員さんはじっと見つめ、ラインを引いていました。地面の色などの違いから、遺構に埋まっている土の範囲を捉え、その範囲にラインを引くのです。その範囲の中の土を丁寧に掘り進めることで、遺構──建物の跡や溝といった、かつてここで暮らしていた人々の生活の痕跡が少しずつ明らかになります。

画像5 遺構の形が見えてきます

 遺構を掘削していると、土器や石器、木製品などが埋もれている場合があります。私たちが見学した遺跡では、ポールの立っている場所で土器が見つかっていました【画像6・7】。

画像6 たくさん土器が出たそうです
画像7 見つかった土器

 出土した遺物は、出土した年月日や場所、および遺構や層の名称を書いたカードと一緒に袋に入れます【画像8】。どこから発見されたものなのかを明確にして、次の作業に引き継いでいくためです。

画像8 出土したものには名札代わりにカードを同封します

③実測や写真による記録

 遺構や遺物の出土の状況は、写真や実測図で記録していきます【画像9】。調査が終わると、その場所には建物や道が建設されてしまうので、二度と目にすることはできません。だから、この記録の作業は、失敗が許されない重要な作業になります。地形図、地層図、平面図、断面図などを作って記録していきます。私たちが実習で取材しているときには、「光波測量機」【画像10】を使用して、平面図を作成する様子も見られました。

画像9 実測作業をしているところ
画像10 光波測量機

 広い調査区の全体写真などを撮影するとき、かつては足場を組んでその上に上って撮影していましたが、近年ではドローンを使って上空から撮影する方法が採用されているそうです。また、その撮影画像を基にコンピューターで図面を起こす「航空写真測量」の技術についても教えてもらいました。

④出土遺物の洗浄と乾燥

 出土した遺物は丁寧に洗浄されます。この作業は、土や泥がついたままの遺物をきれいにしていく工程です【画像11】。一見、単純な作業のように思えますが、注意が必要です。例えば、骨や軟らかい土師器などを不用意に洗うと溶けてしまうことがあります。そのため、遺物の内容を一つずつ確認しながら、道具(ハケ・歯ブラシ・筆、超音波洗浄機など)を使い分けながら丁寧に洗っていきます。

画像11 土器を丁寧に洗います

 また遺物によっては、絵や文字が描かれているもの、色が塗られているものもあります。煮炊きに使われていた土器なら、その表面にススやお焦げが付着していることもあります。これらの遺物については、しっかり観察をしながら土や汚れだけを丁寧に取り除いていく必要があります。

 出土した木製品は、不用意に乾燥させると劣化し、壊れてしまうので水に漬け、後で説明する保存処理を行います。逆に、土器や石器などは湿ったままだとカビが生えてしまうので、しっかり乾燥させ、室内での整理調査に回していきます【画像12】。

画像12 しっかり乾燥させます

【室内での整理調査】編

 発掘調査で見つかった遺構などの記録(図面・写真等)や遺物は、室内での整理調査に引き継ぎます。室内での整理調査には、さまざまな工程がありますが、次の①~④については、展示を作成しましたのでその結果をご参照ください。

 ①注記                                                    【画像13下・14】

画像13 注記の展示パネルです
画像14 注記の道具の展示

 ②接合・復元作業                                  【画像15~18】

画像15 接合の展示パネルです
画像16 接合の道具の展示
画像17 復元の展示パネルです
画像18 復元の道具の展示

 ③保存処理                                             【画像19~21】

画像19 保存処理の展示パネル1です
画像20 保存処理の展示パネル2です
画像21 保存処理に使う薬品の展示

 ④実測・写真、⑤トレース(製図)      【画像22・23】

画像22 実測・トレースの展示パネルです
画像23 実測の道具とトレースした実測図

  以下では、最後の工程にあたる⑥報告書作成と、そのあと地域の皆さんに向けて行う⑦展示製作についてご紹介します。

⑥報告書制作

 現地での発掘調査と室内での整理調査の成果は『発掘調査報告書』としてまとめられます【画像24】。刊行された報告書は、各地で共有・保管され、地域の歴史の解明に役立てられていきます。報告書には遺構や遺物の出土状況や出土した遺物の観察と分析の結果、製図された実測図や拓本・写真などの記録が盛り込まれます。

画像24 報告書の展示

⑦展示制作 

 発掘調査の成果や、それをもとに解明されていく地域の歴史は、地域の皆さんに向け、展示などの形をとりながら発信されていきます【画像25】。

画像25 今回出来上がった展示

 展示の場合、その制作はまず「企画書」の作成から始まります。展示の内容や展示室のレイアウトなどはこの段階でほぼ決まるため、企画書は非常に重要な役割を果たします。

 このインターンシップ実習で、私たちを指導してくれた担当の方の場合、企画書の作成とあわせて、「スケジュール表」や「やることリスト」も作成するそうです。これにより、何をいつまでに行うべきかが明確になり、展示制作をスムーズに進めることができます。

 企画書を作成する際には、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識することに加えて、展示のコンセプトや演出方法についても詳しく考える必要があります。

 特に重要なのがStory(ストーリー):「どのような流れや筋立てで作品を見てもらうか」、Situation(シチュエーション):「どのような設定や環境で作品を見てもらうか」 、Simulation(シミュレーション):「観客の目や体、心の動きなどをどのようにするか」の「3S」と呼ばれる観点で考えるそうで(浅川真紀2023 「ミュージアムにおける「ユニパーサル」とは」『改訂新版 博物館経営論』一般財団法人放送大学教育振興会)、これに加えて「自分自身が見て楽しめるかどうか」も、大切になります。

 展示制作で苦労する点のひとつは、展示内容に詳しくない人にどう説明するか、ということです。例えば展示を作る側のプロの視点と、展示を見に来る一般の人の視点では、知識や経験に大きなギャップがあります。そのギャップを埋めるために大切になるのは、独りよがりにならないことだそうです。この課題を緩和するために、仮想の来場者(ペルソナ)を設定し、「その人にどう説明すれば伝わるか」を考えながら企画を進めていくそうです。また、専門知識のない知人に意見をもらうことも大切だと教わりました。

 そのほか、限られた制作期間の中で、「どこまでこだわるか」、「どのように展示の質を高めていくか」といった判断にも悩むことが多く、とても苦労する点だといいます。

 このようにして、一つの展示が完成するまでには、多くの人とのやり取りと工夫が重ねられていることが分かりました。

あとがき

 今回のインターンシップ実習を通じて、私たちは歴史の「かけら」に直接触れる貴重な経験をしました。一つひとつの作業には、その土地に息づいた人々の暮らしや文化への深い敬意が込められていることを実感しました。遺物や遺構を「発見」するのは、ただの作業ではなく、過去と現在を繋ぐ大切な架け橋を築くことでもあります。

 こうした学びや体験を読者の皆さまと共有することで、歴史遺産とそれを見つけ、保存していくことの重要性を少しでも伝えることができれば幸いです。ぜひ展示やこの解説を通して、私たちの感じた「発見の喜び」を味わっていただければと思います。

 これからも、この経験を活かして学び続け、歴史の魅力をより多くの人に伝える努力をしていきたいと思いました。

(京都橘大学歴史遺産学科2回生 奥田歩武・本庄 唯・吉田琉凱)

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