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新近江名所図会

新近江名所圖會 第446回 斎王が歩んだ近江路―垂水斎王頓宮跡を訪ねて―

甲賀市

 三重県明和町には、かつて伊勢神宮に仕える斎王が暮らした「斎宮」が置かれていました。斎王とは、天皇の代替わりごとに占いによって選ばれた未婚の内親王であり、天皇に代わって伊勢神宮に奉仕する重要な役割を担いました。この制度は八世紀から十三世紀前半まで続き、およそ六百年の間に多くの斎王が都と伊勢を往復しました。

 斎王の物語は伊勢の歴史として語られることが多いですが、実は近江とも深い関わりがあります。奈良時代には平城京から伊賀国を経て伊勢へ向かうルートが利用されていましたが、平安京への遷都後は東海道が近江国を通るようになりました。以後、歴代の斎王はこの近江路を通って伊勢へ赴き、任を終えると再び都へ帰っていきました。その行列は数百人規模に及んだともいわれ、当時の人々にとっては一大行事であったことでしょう。

 斎王の旅は五泊六日に及び、その途中には宿泊や潔斎のための施設である「頓宮」が設けられていました。頓宮は近江に三か所、伊勢に二か所あったと伝えられていますが、その中で唯一所在地が明らかになっているのが、甲賀市土山町にある垂水斎王頓宮跡です(写真1)。ここは単なる宿泊施設ではなく、斎王が神聖な務めに備えて心身を清める重要な場所でした。

写真1 垂水斎王頓宮跡

 垂水頓宮跡の周辺には野洲川とその支流である田村川が流れています。現在はのどかな田園風景が広がっていますが、川の流れに耳を傾けると、古代の旅人たちが感じたであろう自然の気配を想像することができます。斎王もまた、この地で身を清め、伊勢へ向かう決意を新たにしたのかもしれません。華やかな都から遠く離れた近江の地に残る史跡は、古代国家を支えた祈りの文化を今に伝えています。

 周辺には道の駅「あいの土山」があり(写真2)、地元の農産物や特産品、土山茶などを楽しむことができます。館内には飲食施設もあり、史跡散策の休憩にも最適です(写真3)。周辺にはカフェも点在しているため、歴史探訪とあわせて土山地域の魅力に触れることができます。

写真2 道の駅「あいの土山」
写真3 名産のひとつ「斎王の里」

 斎王たちが行き交った近江路は、今では静かな風景の中に溶け込んでいます。しかし垂水斎王頓宮跡に立てば、千年以上前に繰り返された旅の記憶を感じることができます。古代の女性たちが歩んだ道に思いをはせながら、この歴史の舞台を訪ねてみてはいかがでしょうか。

【アクセス】

〈垂水斎王頓宮跡〉

 新名神高速道路「甲賀土山IC」下車すぐ。東名阪自動車道亀山ICから国道1号経由で西へ約30分。JR草津線貴生川駅からあいくるバス「白川橋」下車、徒歩約2分。

〈道の駅「あいの土山」〉

 甲賀土山ICから車で約8分。JR草津線貴生川駅からあいくるバス「田村神社前」下車、徒歩約1分。

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