新近江名所図会
新近江名所圖会 第104回 繖山(きぬがさやま)
繖山は、近江八幡市の旧安土町と東近江市の旧五個荘町・旧能登川町の境にある独立山塊で、山頂は標高432.7mです。湖東平野に横たわり、山容は絹傘に似ています。西は北腰越の鞍部で安土山に連なります。山上の観音正寺にちなんで観音寺山、あるいは日本で初めて桑の木が生えた場所との伝承から、桑実山ともよばれます。
この山は特別高い山ではないにもかかわらず、不思議なことに県内のあちこちからよく見えます。実際この山を縦走すると、その山上からは、湖東平野のみならず、近江の耕作可能な平地のかなりの部分を見ることができます。また、この山には、中世城郭としては国内最大の山城である史跡観音寺城跡や、西国三十二番札所観音正寺があることなどでよく知られていますが、これらの著名な城や寺の話はほかでいくらでも読むことができますので、ここでは触れません。
今回は繖山からの絶景ポイントをご紹介します。
繖山へは、麓の滋賀県立安土城考古博物館の玄関の左方向に建っている屋外展示施設「重要文化財旧宮地家住居」を右手に見ながら登るルートが行きやすいでしょう。最初は木立が深い道ですが、とことこ登っていくとやがて鉄塔のある見晴らしの良いところに出ます。ここでそのまま斜面をあがらずに右手の斜面を巻いていく道を行きましょう。西国観音霊場の小さい石仏が所々に安置してある道です。途中、左手に大きな磐(いわ)がありますが、これはどうやら役行者(えんのぎょうじゃ)が祀られている磐坐(いわくら)のようです。やがて、桑実寺へ下りる道との分岐点に着きます。ここで左の方へ折れ、針葉樹の林の中を進みます。右手下方に桑実寺のお堂の屋根を見ながらさらに登っていくと、遊歩道の右手に若干の平場があります。そちらに入っていくと、人の背丈ほどの縦長の岩が二つ、まるで門柱のように立っている、とても巨大な岩が足下にどっかりあるところに行き当たります。これが桑実寺の奥の院にあたる磐坐「るり石」です。寺の縁起によると、湖中より出現したご本尊の薬師如来が影向(ようごう:姿を現す)したという磐で、桑実寺縁起絵巻にもまったく同じ磐が描かれています。むかしはこの磐坐に寺からお参りする参道があったようですが、いまは荒れていますので、この遊歩道から行く方がよいでしょう。このルートならではのおすすめ見所の一つです。
遊歩道に戻り、さらに上を目指します。だんだん林が広葉樹に変わり、地面近くの草花も冷涼な場所を好むものが増えてきます。4月末~5月初め頃なら、イワウチワやチゴユリなどの花がみられます。登りはややきつめですが、めげずに登っていきましょう。やがて、木々のないすっきりと開けた、すばらしい眺望のところにたどり着きます。三角点はまだ上ですが、この見晴らしの良いところが繖山からのおすすめ絶景ポイントです。繖山を縦走していくと何カ所も見晴らし良好なポイントはありますが、ここからは安土城跡の全貌がよくわかるという意味では絶妙なポイントです。特に5月半ば~末頃は田んぼに水が入り、周辺がかつての内湖の風情を取り戻すことから、安土城が内湖に突き出た岬のような立地の城であった様子がイメージしやすいでしょう。
ここから山頂の三角点まではそうかかりません。しかし、山頂は木が生い繁って見晴らしが良くないため、休憩ができる場所はありますがあまり楽しくはありません。 山頂からは観音正寺のほうへ尾根道を進んでいくと、寺の境内に行き着くまでに石垣や城として造成した平坦地なども見られます。観音寺城は山の南側を中心に築かれ、北側にはほとんど郭がないのですが、この三角点から寺域に向かう途中では山の北側に築かれた郭を見ることができます。
観音正寺の境内に着くと、トイレや自動販売機・休憩所もあるので、お参りして一息つけます。せっかくなので観音寺城跡の伝本丸跡や伝平井丸跡などを見るのもよいでしょう。その後、桑実寺の方へ下りていったとして、ゆったりまわって全部で4~5時間くらいかかります。
周辺のおすすめ情報
繖山には、観音正寺や桑実寺のほかにも、須田不動・雨宮龍(あまみやりゅう)神社・石馬寺・安楽寺・望湖神社・繖峰三(さんぽうさん)神社・北向十一面観音・上山天満天神社・磐船神社など実に多くの社寺があり、まさにパワースポット満載の魅力的な山です。JR琵琶湖線の安土駅や能登川駅からもさほど遠くなく、比較的アクセスしやすいので、是非一度訪れてみてはいかがですか。
アクセス
(安土城考古博物館まで)
【公共交通機関】JR琵琶湖線安土駅下車徒歩25分、駅前レンタサイクル(9分)
【自動車】名神高速道路竜王IC・八日市ICから約20分
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(小竹志織)