新近江名所図会
新近江名所圖会 第72回 生命の泉-明神池-
東近江市、近江八幡市、竜王町の2市1町にまたがる雪野山(龍王山)は、遺跡や隠れた名所の宝庫です。すでに新近江名所圖会では、雪野山西麓にある安義橋(第11回)、雪野寺(第69回)、東麓にある八幡社古墳群(第19回)、東麓からは少し離れますが、木村古墳群(第41回)、御沢神社(第52回)などを紹介しています。
今回、名所図会に取り上げます明神池は田園地帯の広がる雪野山北端にあたる倉橋部山東麓の白鳥川に接した東近江市下羽田町にあり、安吉橋(安義橋)や安吉神社はちょうど山の反対側になります。
この地域は伏流した水が湧き出す水の豊富な地域であり、明神池から北東約1kmにある御沢神社では、湧水を神鏡水として参拝者に振る舞われています。明神池と御沢神社の池はともに絶えることなく水が湧き、この地域の農業や祭礼など生活を支えた歴史を垣間見ることができます。
池のすぐ横には縄文時代から中世まで連綿と集落が営まれる下羽田遺跡があり、古くから湧水を利用しながら生活していたことがわかります。
現在、明神池では池の南東に位置する下羽田町の集落にある剱神社の社守が毎年、池の清水で身体を浄め、1年の無事を祈願されています。また、白鳥川下流の近江八幡市馬淵郷(岩倉、馬淵、千僧供)の集落によって池のすぐ脇に鎮座する岩井大明神が井神として祀られています。
明神池は古くから岩倉、馬淵、千僧供地域の農業用水として利用されており、天保3年(1832年)に描かれた岩倉村領内田地居村絵図では、明神井(明神池)から各村への用水の様子がよくわかります。
おすすめPoint
明神井(明神池)から各集落に供給される用水は、大正9年(1920年)にまとめられた『農業水利及土地調査書・第壹輯』によると、千僧供・長福寺を灌漑する大井、その支流の岩倉や馬淵の一部を灌漑する十吾川と馬淵の一部を灌漑する三ッ川に分かれており、この分流比率は大井と三ツ川が四分、十五川が二分となっています。
この分流の比率が『四分四分二分』と言い習わされており、明神池の傍にはこの由緒が書かれた碑が建てられています。
また、千僧供町椿神社の四脚門前に埋められた三つの石の間隔もこの比率(四対二)となっているなど、この地域の生活や祭りを表す重要な言葉となっています。
そのことからも、田畑を潤し、生活に欠かせない水への思い入れがうかがえます。
周辺のおすすめ情報
この地域は神社が多く鎮座しています。
壬申の乱で功績のあった羽田八国が白鳳2年(673年)に勧請したと伝えられる東近江市下羽田町剱神社が南東約1.4km、北西約1kmには、長和5年(1016年)に日吉十禅師社を勧請したとされる近江八幡市千僧供町椿神社や馬淵郷の郷社で式内社とされる馬見岡神社があります。
また、北東約0.8kmに東近江市上平木町日吉神社や北東約1kmに同町御沢神社があります。
アクセス
【公共交通機関】
JR琵琶湖線近江八幡駅南口より近江バス北畑口行きまたは長峰集会所行き、鳴谷下車、徒歩20分
(歩き方)雪野山北端を目指し西へ200mほどで白鳥川につきあたる。そこを左折して約100m行くと白鳥川にかかる小さな橋があり、その橋を渡って左折し約60mで明神池に到着する。
【自家用車】
名神高速道路竜王IC下車15分、駐車場なし
より大きな地図で 新近江名所図会 第51~100回 を表示
(中村 健二)
参考資料
近江八幡市史編集委員会2007『近江八幡の歴史』第三巻 祈りと祭り
平田地区まちづくり協議会「明神池」http://hiratayumekaigi.web.fc2.com/map/15.html
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