新近江名所図会
新近江名所圖会 第91回 春を告げる-高島市今津町のザゼンソウ群落
ちょっと暖かな日があってもまだまだ寒い日が続きますが、2月中旬から3月上旬はちょうどザゼンソウの花の時期です。一見、地味な色の花ですが、雪の中から顔を出すその姿は春の訪れを感じさせてくるものの一つです。
おすすめPoint
ザゼンソウは「坐禅草」と書き、花の様子を僧侶が坐禅している姿に見立てたことからそう呼ばれます。また達磨大師の坐禅する姿に似ているため「ダルマソウ」といわれることもあります。
この植物はサトイモの仲間で、冷帯~温帯の山岳地の湿地に生える多年草です。開花時期は1月下旬から3月中旬。花はサトイモ科特有の暗紫褐色の仏炎苞(ぶつえんほう)が、多数の花をつけた肉穂花序(にくすいかじょ)をくるむように開花します。このとき肉穂花序で発熱が起こり、約25℃まで上昇し、周囲の氷雪を溶かして、いち早く顔を出すことで、この時期には数が少ない昆虫を独占し、受粉確率を上げています。開花後、大型の葉を成長させます。発熱時の悪臭と熱により、花粉を媒介する昆虫をおびき寄せると考えられており、また茎や根など全草に悪臭があることから英語でSkunkCabbge(スカンクキャベツ)の呼び名があります。
一般にサトイモ科の植物の多くは熱帯に広く分布していますが、ザゼンソウは、ミズバショウなどとともに北半球の寒冷地にまで進出している珍しい種です。分布域は北米東部および北東アジア(北東シベリア、中国北東部および日本)で、今津町が日本国内での南限であり、分布上重要種と位置づけられています。
ザゼンソウ群落の中は遊歩道がつけられ、歩きやすくなっています。ザゼンソウを痛めないために、遊歩道以外のところに立ち入らないように、また周辺は住宅地のため静かに鑑賞してください。
周辺のおすすめ情報
2月下旬頃の花の最盛期には、ザゼンソウの観察会や地元の物産をPRする「ザゼンソウまつり」や今津の施設や商店をめぐるともれなく景品がもらえる「スタンプラリー」が行われ、お花を鑑賞するだけでなく、今津の町をいろいろと楽しめます。
今津あたりは県内でも湖の幸が新鮮豊富で、この時期なら、氷魚が食べられるのが楽しみです。氷魚はアユの稚魚で、12月から3月ころにかけてしか獲れないおいしい魚です。
ちっちゃくてもちゃんとアユと同じキュウリのようなにおいがします。魚体が小さく足が早いため、生では県内でも漁場に近い川魚屋さんでしかお目にかかれません。
今津の町の中には淡水魚専門の川魚屋さんが何軒もあり、京都はもちろん、湖南あたりの川魚屋さんよりも安くて魚の種類も豊富です。
ザゼンソウにまつわるお土産としては「ざぜん草もなか」が有名です。ザゼンソウの花のかたちを象った形で、中の餡のなかに肉穂花序に見立てたクリがごろんと入っています。JR近江今津駅構内には観光案内所やウナギを売っている店もあり、町内散策の情報も入手できます。
ザゼンソウが見られるのは、県内ではここ今津町弘川のほか、旧東浅井郡の高山から鳥越峠付近(金糞岳本谷)、伊吹山北尾根の国見峠までの登山道沿線および長浜市(旧伊香郡)余呉町の椿坂峠付近の山裾や、中河内(なかのかわち)などに小群落の分布が確認されています。中でも中河内の自生地はユキツバキも自生しており、滋賀県の気候・風土の多様性を表し、この地域本来の植生をよく残す重要なものとして、『中河内のユキツバキとザゼンソウ群落及びその自生地』として滋賀県の天然記念物に指定されています。(※ユキツバキ:豪雪地帯にみられる高さ1~2mのツバキ。雪の重みに耐えられるよう、地面を低く這うように枝を広げる。)
アクセス
【公共交通機関】JR湖西線近江今津駅下車徒歩30分、JRバス利用「ざぜんそう前」下車すぐ
【自家用車】国道161バイパス弘川ランプ下車すぐ、駐車場あり
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(小竹 志織)
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