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新近江名所図会

新近江名所圖會 第250回 比良山系最大級を誇る謎の山寺 -大津市ダンダ坊遺跡-

大津市
写真① 寺坊を区画する石垣
写真① 寺坊を区画する石垣
写真② 本堂跡への参道
写真② 本堂跡への参道
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写真③ 建物跡の礎石
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写真④ 庭園遺構前の枡形虎口

比良山は1,000m級の山々が連なり、古くから畿内を取り巻く清浄な霊山として承和3年(836)に嵯峨天皇によって七高山のひとつに勅定されています。この七高山には、近江の国から比叡山と伊吹山も挙げられ、延暦寺をはじめとして多くの山寺が築かれました。第164回で謎多き山寺として高島市にある長法寺跡をご紹介しましたが、今回はさらに謎の深いダンダ坊遺跡をご紹介します。
ダンダ坊遺跡は、以前営業していた比良登山リフト乗り場付近の約550m×150mもの広範囲にわたって寺域が広がり、現地には石垣や段差によって区画された数多くの平坦面(寺坊跡)が残されています(写真①)。しかし、お寺に関する具体的な内容を示す文献史料などはほとんど見当たらず、後世の伝承がわずかに残る程度であることから、現地の残る遺構規模や密度とのギャップが激しく、まさに「謎の山寺」といえます。
お寺に関する沿革などは謎が多く残されたままですが、現地に残る遺構の状況からはかつて栄えた山寺の様子を垣間見ることができます。遺跡内には所々に案内板が設置され、迷うことなく散策することが可能で、石段を伴う参道(写真②)を上がった寺坊群の最高所に本堂跡が位置しています。本堂跡は最も広い平坦面となり、礎石建物の痕跡も残っています(写真③)。本堂跡や各寺坊跡の配置を注意深く見ていくと、石垣などで区画された寺坊跡が直線的な通路沿いに並び、そこからさらに小道が分かれて別の寺坊跡に接続していたことがわかります。ただし、規則的に整然と配置された状況ではないことから、徐々に寺坊の造成・造り替えが繰り返されて複雑化していったと推測されます。
遺跡内の山裾の道を、寺坊跡を右手に見ながら最奥部に進むと庭園遺構があり、池跡や景石が残っています。その入口には城郭にみられる枡形虎口状の空間が築かれています(写真④)。枡形虎口とは入口に方形の空間を設け、門などと併用することで立ち止まった侵入者を殲滅する構造となっています。この枡形虎口があることから、「ダンダ坊城」とする説もありますが、その規模は小さく、防御性のある城郭らしい遺構は他には見当たりません。寺域の最奥部に位置し、庭園も築かれていることから、枡形虎口という武家風の構えを施した寺屋敷ではないかと推測されます。
当協会が行った最近の発掘成果として、平成28年度に大津市伊香立にある「林宗林坊」の居城と伝わる生津城遺跡の発掘調査を行いました。そこで検出された櫓台には石垣が施され、城郭に石垣が導入される画期となった安土城よりも古い段階のものである可能性が出てきました。石垣は城郭に導入される以前から寺院では用いられている技術で、櫓台に施された石垣は寺院からの技術導入と考えられます。
ダンダ坊遺跡で多用される石垣と武家風の構えを施した寺屋敷、そして僧名を名乗る林宗林坊が城主と伝わる生津城と発見された櫓台の石垣。「寺院と城郭」との接点が山寺の石垣から見えてきそうな気がします。

(小林裕季)

所在地:大津市北比良
アクセス:(公共交通)JR湖西線比良駅から徒歩約1時間
※土休日のみ比良駅よりバス運行あり「比良イン谷口」下車 徒歩約5分
(自家用車)志賀バイパス比良ランプから約3分

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