新近江名所図会
新近江名所圖會 第368回 伊吹山の魅力が詰まったワンダーランド―米原市・伊吹山文化資料館―(前編)
滋賀県の最高峰、伊吹山のふもとにある資料館は、廃校になった小学校を改装してつくられた資料館です。建物のつくりはそのままに、かつての教室がそれぞれ展示スペースとして活用されています。伊吹山に関する自然・歴史・民俗などの幅広い分野の資料を、4つのテーマに分けて展示解説しています。
1階には常設展示室が2カ所あります。【展示室1】は、「伊吹山に抱かれた人々のくらし」をテーマに昭和30年代頃以降、急速に近代化していく以前の、伊吹山付近の山里のくらしについて、生業・住まいのようすなどが展示されています。米作りなどに使う農工具や、山菜や木の実を採集・加工する道具などが所狭しと展示されています。また、展示室の一角には民家の囲炉裏端を原寸大で再現してあります。
【展示室2】は「伊吹山の恵みとなりわい」のテーマで、石材や植物など山がもたらす恵みを活用したなりわいについて、各種民俗資料が展示されています。例えば、良質な花崗岩でつくる「石臼づくり」では作りかけの石臼(写真1)や製作道具の数々、ヨモギから作る「もぐさ」では製造に使う石臼、唐箕(とうみ)など。「麻織り」については原料・加工過程の繊維や糸から製品(着物)まで(写真2)。また湖北地域でかつて盛んだった「養蚕」に関する設備や道具、あるいは真綿(まわた)づくりの道具類と現物資料。山の資源の一つ、木材からつくる「木炭」については原料木材の各種標本が展示されるなど、多彩ななりわいが紹介されています。
2階には【展示室3・4】の常設展示室が2カ所があり、企画展示や、講座などが催されています。【展示室3】は「伊吹山の自然と文化」をテーマに、岩石・化石・植物・昆虫・動物・鳥類などの豊かな自然について、標本(写真3)・剥製・カラー写真などを用いた説明と、それら自然と人々のくらしとの結びつき、山の恵みに対する「いのり」として今も受け継がれる「まつり」なども紹介しています。そして近代化へのあゆみについては、伊吹山でとれる様々な石灰石のサンプルをはじめ、日本の戦後復興を支えた伊吹山のセメント産業について、その歴史や製造工程なども紹介されています。また、この部屋の自然分野と人文分野の境には、カーテンのように吊り下げてある、ポスター展示や壁紙新聞のような手書き・手作りの展示パネルがあり、「食文化」「川魚の利用」「薬草史」「おこない」など細かなテーマごとにシートが分けられています。これらは一か所にまとめて吊り下げられているので、見たいものを引っ張り出して見るようにできており、わずかなスペースにいろんな情報が収納されたような感じです。
(写真4) ちなみに最近イヌワシの剥製がこの部屋に仲間入りしました。(写真5)
【展示室4】は「掘り起こされた伊吹の歴史」のテーマで、発掘調査で出てきた考古資料が展示されています。伊吹山麓付近の人々のくらしが、旧石器から稲作の開始、中世の山岳信仰や戦国期にかけて考古遺物と模型などの資料でわかりやすく解説されています。特に職員の手作りのによる、上平寺城(じょうへいじじょう)など近隣の山城(やまじろ)の模型がいくつもあり必見です。(写真6)
【企画展示室】は広くはありませんが、ジャンルを問わず、伊吹に関連するテーマを中心にこまめに展示替えされています。また【屋外展示】として、伊吹山麓の上野地区で発掘された「ミミ塚古墳」の石室と上平寺地区で発掘された「若宮氏屋敷跡出土石垣」が資料館の敷地内に移築されており、いつでも見学できます。
そして展示以外にも普及活動に熱心に取り組まれており、一般向けの講座や子供向けの体験教室がそれぞれ月一回程度のペースで行われ、毎回満員御礼の大盛況です。
こじんまりしているものの魅力がいっぱいのこの資料館は、地域住民を中心としたサポートメンバーが、館のさまざまな活動に参加協力することで、官民一体となった上手な運営をされています。
次回は〔おすすめPoint〕と〔周辺のおすすめ情報〕をご紹介します。
(小竹志織)
◆アクセス
【公共交通】・JR東海道線近江長岡駅からバスまたはタクシー
・湖国バス「伊吹登山口」行で「ジョイいぶき」下車 徒歩8分 (ただし12月から4月末は土日祝運休・詳細は湖国バスのHPをご確認ください。)
【自家用車】名神高速米原JC・関ケ原IC、北陸道長浜ICから約15分