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今津酒波寺桜

新近江名所図会

新近江名所圖会 第148回 桜のある風景

高島市
(高島市今津町酒波寺)
今津酒波寺桜
酒波寺の桜

大津あたりではソメイヨシノが散り始めている頃でも、湖西から湖北にかけては、まだまだきれいに咲き誇る桜を楽しむことができます。今回はソメイヨシノのようにたくさん植えられている桜ではなく、凛として佇む桜の木をご紹介します。
山でよく見るヤマザクラもそういった趣きのある桜ですが、今回ご紹介するのはエドヒガンという桜です。エドヒガンは樹高15~25mで、名前のとおり春の彼岸頃に、ソメイヨシノより早く花が咲き始めます。ヤマザクラとともに桜の中ではとても長寿の種であることが知られていて、樹齢2,000年を超えるといわれるものもあります。花が多く咲く特性から多くの品種の母種として使われていて、ソメイヨシノの片親としても知られています。
このエドヒガンですが、高島市今津町から同マキノ町にかけて多く自生していることが知られていて、水上勉の小説「桜守」に登場する「清水の桜(しょうずのさくら)」もその1つです。「清水の桜」は滋賀県自然記念物に指定されている、県内最大級のサクラの巨木です。江戸時代に加賀藩の前田候が上洛の際に、何度も振り返ってその美しさを愛でたので、以来「見返りの桜」と呼ばれるようになったとの由緒もあります。

おすすめpoint

今津酒波寺エドヒガンサクラ
酒波寺のエドヒガンサクラ

今回ご紹介するのは、この「清水の桜」ではなく、今津町酒波寺(さなみでら)にある「行基桜」と呼ばれるエドヒガンです。
酒波寺は、箱館山の南東麓にある酒波集落の北側にある真言宗智山派の寺院で、青蓮山と号します。天平13年(741)に聖武天皇の御願によって、行基が自ら彫った千手観音像を本尊として開いたと伝えられていて、その後、冷泉天皇の時代(967~969)に再興され、さらに、康和3年(1101)に堀河天皇が修復したという由緒を持つ寺です。平安時代には、天台宗・真言宗の兼学道場として発展したと言われています。しかし、延暦寺勢力の統制下にあり、戦国期には浅井氏の庇護を受けていたことから、元亀3年(1572)に織田信澄の兵火によって焼かれたとされています。その後、本堂は再建されましたが、寺坊の多くは再興されることなく現在に至っています。ただ、現在の本堂と庫裡の周辺の山中には、かつて寺坊のあった平坦地がたくさんあり、また、酒波集落には寺坊があった時代の地割りが現在も残されていることから、とても規模の大きな寺だったことがわかります。
「行基桜」は、本堂へ上がる石段の左手にそびえています。残念ながら、平成15年(2003)の大雪で北側の大枝が2本折れてしまい、現在では半分の姿になってしまっていますが、21.5mと樹高が高く、凛とした立派な木です。石段の下から酒波集落にかけては、ソメイヨシノがたくさん植えられているので、ソメイヨシノの開花時期にはそれに紛れてしまいますが、エドヒガンの開花時期はこのサクラの独壇場で、遠く離れた国道303号からもその姿がよくわかるほどです。先日花の咲き具合を見に行きましたが、花が白くなっているので、もうまもなく散ってしまうことでしょう。来年はソメイヨシノの開花よりも早い時期に、このサクラに会いに行っていただきたいと思います。

周辺のおすすめ情報

海津大崎の桜並木

日本さくらの会の選定する「日本のさくら名所百選」にも選ばれた海津大崎の桜。樹齢60年を越える600本のソメイヨシノが琵琶湖沿岸を延々4kmにわたって桜のトンネルをつくります。車で行く場合は、開花の時期のみ一方通行の交通規制があるので、事前に確認してください。

氷魚(ひうお)

氷魚とは鮎の稚魚で春が旬です。川魚屋さんには佃煮や山椒と炊いたもの、釜揚げ、まれに生のものも売っていますが、私のお薦めは釜揚げです。近江今津駅周辺の川魚屋さんなら大抵置いていると思います。琵琶湖の春の味をお楽しみください。

アクセス

【公共交通】JR湖西線近江今津駅より近江バス総合運動公園線「酒波」下車徒歩5分
【自家用車】湖西バイパス日置前ランプより北西方向に約5分


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(岩橋隆浩)

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