新近江名所図会
新近江名所圖会 第24回 白鬚神社-ご祭神にまつわる伝説と美しい景観-
国道161号線を大津から北上して高島市域に入ると、まもなく右手の琵琶湖中に朱塗りの大鳥居が目に入ってきます。この景観によって、近江の厳島と呼ばれ広く親しまれているのが白鬚神社です。当社は湖西を代表する名社で、全国各地に勧請されている白鬚(白髭)神社の本社とされています。
当社の来歴に関しては、社蔵の白鬚明神縁起(二巻・絹本著色・江戸時代)に色鮮やかな絵とともに詳述されています。勿論、史実だけでなく神話的な内容も多く含まれますが、大変興味深いものなので、少しくその内容を紹介しておきましょう。
まず上巻では、天孫降臨ののち、琵琶湖の風光を愛でて釣を楽しむ猿田彦大神が描かれ、やがて土地の人々より奉祀されて一社が創建されたこと、同神はその相貌から白鬚の神とも、地名から比良の神とも呼ばれたことが記されます。
画面では、鼻長く、爛々と眼の輝く猿田彦特有の容貌が、次第に白鬚の老翁形に変容してゆく様子が、現代のアニメに通じるようで興趣をそそられます。
一方、下巻では、足利将軍義輝・義昭や佐々木義賢らの崇敬を集め、とくに義賢は社域に伊勢の内・外宮を建て、亡母のために阿弥陀四十八体石仏を造像したこと、また浅井長政の娘(淀君)が当社を渇仰して、荒廃の進んだ社殿を旧観に復したことが描写されています。現在の本殿(重要文化財)は、慶長8年(1603)豊臣秀頼の命によって建立されたものですが、縁起で彼の名を出さず、あえて長政女と記すのは、幕府への遠慮があったのかもしれません。
おすすめPoint
まずは湖中の大鳥居。近年琵琶湖の水質が問題になっていますが、このあたりでは透明度も上がっており、湖西地域有数の撮影スポットとして知られています。国道から湖岸に石段でおりることもでき、石段に腰を下ろして、鳥居越しの沖の島など、美しい風景を楽しむことができます。
但し神社の駐車場から国道を渡って湖岸に行く際、車にとって見通しが悪く、スピードをだしている車が多いので十分気を付けて頂きたいと思います。 また、波飛沫によって湖岸の石が濡れて滑りやすくなっていることも多いので、くれぐれもご注意下さい。
実は私も昨秋、鳥居の撮影中に背中から湖中に転倒してしまいました。25年来の相棒、オリンパスOM3だけは、咄嗟に抱きしめて水没から守りましたが、ジャケットやセーター、ズボンはずぶ濡れになってしまい、やむなく上半身Tシャツ、下半身は下着のみという、些かあぶない格好で運転して帰宅したものです。
また、方三間、入母屋造、檜皮葺の本殿をはじめとする、境内の諸建築も見逃せませんし、芭蕉句碑や与謝野鉄幹・晶子夫妻の歌碑なども、文学好きの人にとって必見でしょう。
周辺のおすすめ情報
鵜川地域には、四十八体仏と呼ばれる石仏群があります。前記の縁起絵の中でも、佐々木義賢が亡母のために阿弥陀四十八体石仏を造像したとあるように、阿弥陀石仏ばかりの群像です。銘文は一切見られませんが、作風からはほぼその時期の制作と考えられるもので、阿弥陀の四十八願に因んだ全国的にも大変稀少なタイプの作品です。
もともとは四十八体揃っていたのですが、うち十三体が坂本の慈眼堂に移され、また近年二体が盗難にあってしまいました。それでも、三十三体にのぼる等身以上の丸彫り坐像が居並ぶのは大変な迫力で、極楽往生を切に願った戦国時代人のこころが偲ばれます。
アクセス
【公共交通機関】JR湖西線近江高島駅下車、江若交通鵜川線バス 白鬚神社前すぐ
【自家用車】国道161号線を大津方面から北上し、高島市域に入ってすぐ、駐車場あり
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(山下 立)
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