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新近江名所図会

新近江名所圖会 第347回 ライフラインに思いを馳せる ―近江八幡市立郷土資料館―

近江八幡市
写真1 安養寺遺跡で出土した水道遺構
写真1 安養寺遺跡で出土した水道遺構

当ホームページの「調査員オススメの逸品」第221回で、大津市大津廃寺の発掘調査で見つかった江戸時代の水道遺構が紹介されていました。これと同じような水道遺構を、私も調査した経験があります。私が調査したのは、同じく「調査員オススメの逸品」第196回でも紹介されている、近江八幡市の安養寺遺跡でした。
安養寺遺跡は、野洲市との市境にほど近い場所にあります。私が調査したのはJR東海道新幹線のすぐ北側で、平成18(2006)年のことでした。当時の私はこのような遺構の知識がなく、検出した直後は何なのかわからなかったのですが、一緒に調査をしていた地元の作業員さんたちが「ああ、水道やな」と教えてくださって、ようやくその正体がわかりました。さらにお話を伺ってみると、作業員さんたちが幼いころにはこういった水道がまだ機能していて、周辺の住民が井戸組合を作って共同で管理していた、ということも教えていただきました。
滋賀県内では、同様の施設が大津市、近江八幡市のほかにも彦根市や長浜市にもあったようです。なかでも近江八幡市のものは設置された時期がかなり古いようで、一説では1607年頃に作られたと言われています。発掘調査をしているとわかるのですが、近江八幡市域において比較的浅い位置で湧いてくる地下水は鉄分を非常に多く含んでおり、2・3日溜めておくと、水も周辺の土も、赤茶けた錆色に染まります。飲料水として適切とは言い難い水質であるため、水源地から直接水を持ってくる必要性があったのでしょう。
◆おすすめPoint

写真2 近江八幡市郷土資料館外観
写真2 近江八幡市郷土資料館外観

近江八幡市域での生活に欠かせないものだった水道(地元では「井戸」などと呼んでいたようです)、現在ではさすがに使われていませんが、地元の方々にとっては大切な遺産でもあります。そこで、これらの記憶を後世に残すために、展示・紹介を行っている施設があります。それが近江八幡市立郷土資料館です。

写真3 水道遺構の模型
写真3 水道遺構の模型

こちらではこの水道遺構の模型、さらに接手(つぎて)の実物も展示されています。この建物は、かつて海外で活躍した近江商人・西村太郎右衛門邸跡に明治19(1886)年、八幡警察署として建設されたもので、昭和28(1953)年に大幅に改築され、現在の形になりました。この時、改築の設計をヴォーリズ建築事務所が行っています。館内には、他にも八幡山城・城下町に関する遺物や歴史資料、江戸時代の八幡町や近江商人に関する史料も常時展示されていて、当地の歴史を概観することができます。
大きな災害があると注目される都市のライフラインですが、かつて近江八幡市域ではその管理運営を、公ではなく住民が自らの手で行っていました。前述の「調査員オススメの逸品」第196回・第221回をご覧いただくと、とても丁寧に構築されていることがおわかりいただけるかと思います。興味がわきましたら、ぜひ近江八幡市立郷土資料館にも足をはこんでみてください。

写真4 水道遺構の接手
写真4 水道遺構の接手

【近江八幡市立郷土資料館】
開館時間:午前9時~午後4時30分(入館は午後4時まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)・祝日の翌日・年末年始
入館料:一般 300円 小中学生 150円
(「重要文化財旧西川家住宅」も見学できる共通券もあります。)

◆周辺のおすすめ情報
北側に隣接して近江八幡市立歴史民俗資料館があります。こちらは江戸時代末期の民家を修復し、近江八幡の商家の帳場風景や当時の生活ぶりをそのまま再現しています。また、さらにその北側には重要文化財旧西川家住宅があります。西川家は代表的な近江商人の一家で、この邸宅は昭和58年1月に重要文化財に指定されました。3階建ての土蔵は、天和年間(1681~1683年)の建築で、全国的に見ても珍しいものです。
ここから北に向かって10分ほど歩けば、時代劇のロケなどでよく使われる八幡堀に出ます。堀に沿って東へしばらく歩けば左義長祭で有名な日牟禮八幡宮、そこからロープウェイに乗れば八幡山城と、見どころ満載のエリアです。

◆アクセス
【公共交通機関】鉄道:JR近江八幡駅北口から、近江バス長命寺方面行で、「小幡町資料館前」下車。徒歩約2分。
【自家用車】名神高速道路「竜王インター」「蒲生インター」「八日市インター」いずれかで下り、近江八幡市街方面に。国道8号線からの場合は、「東川」または「友定」の信号を近江八幡市街方面に。湖周道路からの場合は、「湖岸白鳥川」か「渡合橋北詰」の信号を近江八幡市街方面に。
旧伴家住宅に隣接する市営小幡観光駐車場をご利用ください。
(阿刀弘史)

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