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調査員のおすすめの逸品 №297 変な名前の測量道具-アルミ製箱尺

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写真1 バカボー(上)とスタッフ(下:アルミ製箱尺)
写真1 バカボー(上)とスタッフ(下:アルミ製箱尺)

その業界では常識だけど、外部の人にとっては「何それ?」という言葉があります。それは道具の名前だったり、何らかの行動を指すものだったりと様々です。大体どんな業種でもそのようなものがあるしょう。もちろん私たちの職場でも、そういう言葉はけっこうありまして、新人の技師や補助員さんもはじめは非常に戸惑われることも多いようです。ということで、今回は変な名前の測量道具を取り上げてみようと思います。
普通「スタッフ」といえば、何らかの行事や事業において、その作業を進めていくための人員を指す言葉として使われることが多いですよね。実際、私たちの職場でも「現場スタッフ」と言えば、その発掘調査現場で仕事をする調査員・補助員・作業員・重機オペレータなどの人員を一括して指しています。ところが、測量作業を行うときに「スタッフ用意して」と言うと、それは違うものを指しているのです。

写真2 バカボー(上)とスタッフ(下)との目盛り
写真2 バカボー(上)とスタッフ(下)との目盛り

ここで「スタッフ」が指しているのは、別名「箱尺」や「水準標尺」とも呼ばれる一種の物差しです。「スタッフ」=「Staff」=棒という意味に因んでいるようです。2~4段くらいの入れ子状になっていて、全長は2~5m、必要に応じて引き出して伸ばして使います(写真1)。材質は、昔は木製であったようですが現在はアルミニウムで、見た目よりは軽量です。目盛りは5㎜単位。なので、あまり細かい計測には向きません(写真2)。私たちはこれを使って、遺跡の細部の標高や遺構の深さなどを計測し、遺構実測図と呼ばれる図面に記入していきます。これによって、遺跡全体の傾斜や建物の柱穴の組み合わせなどを検証することができます。また、遺跡の地面に3mもしくは5m間隔の杭を升目状に打って水糸を張り、遺構の広がりを図面にしていくときにも使います。

この大型物差しであるアルミ製箱尺=「スタッフ」は一般名称であることはすでにお話ししましたが、細かく見ていくと用途が同じ「スタッフ」なのですが、メーカーによってそれぞれ商品名がつけられています。ご紹介するのは、まさに「それ何?」な名前です。一般的な「スタッフ」よりも細身で軽く、伸ばしても2~3m、目盛りは1㎜単位のもので、その呼び名が「バカボー」。「バカボー君」になると、株式会社マイゾックスの登録商標名です。余談ですが、1㎜単位と並んで尺単位の表示があるバージョンもあり、これは「尺ボー君」というそうです。他にも「賢ボー」「尺とり虫」「のび助」などといった商品名もあります。「バカボー君」が登録商標化される以前から「バカボー」という言葉はあったようで、もともとはその場にある棒や板を利用して、所定の長さに切ったり、木の角棒に横線を一本引いたりして作った一種の簡易定規のことを「バカ棒」と呼んでいたようです。これは同じ長さ(高さ)を多数の箇所に繰り返し記すときなどに使用する棒のことを指し、水平を出すための測量器具として、工事現場にある木切れなどを適宜切断して簡易に作っていた道具で、間違いようがなく馬鹿が見ても分かるから、ということからその名がついたとされる説もあります。

写真3 スタッフを使って測量作業中
写真3 スタッフを使って測量作業中

とは言え現在私たちが日常使用する「バカボー」、なまじ1㎜単位の目盛りが入っているために、落ち着いて目盛りを見ないと、読み間違えることも珍しくありません。…あれ、「間違いようがない」って言われてたはずなのに…?
(阿刀弘史)

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