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オススメの逸品

調査員オススメの逸品 第230回 手ガリと手スコ ―発掘調査の必需品―

その他
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写真1 手ガリ

遺跡関係のテレビニュースでは、現場で作業員さんたちがハケと竹ヘラで慎重に遺物を掘り出している情景をご覧になったことが多いのではないでしょうか。でも、この場面は現地作業工程のなかの一場面にすぎません。そこにいたるまで、さらにその後調査が終了するまでには、長く容易ならざる道のりがあるのです。今回はその道のりの一端を道具からお話ししてみます。
発掘調査では、最初に重機(バックホー)で表土などを掘り下げ、遺構を確認できる地層付近まで慎重に削っていきます(本連載第190回)。その後、土の色や質の違いに注意しながら地面を薄く削り、遺構を探していきます(本連載第158回)。この作業を遺構検出と呼んでいますが、ここで注意しないと大事な遺構を見逃してしまいます。だから、発掘調査のなかでも最も緊張する重要な工程といえるのです。

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写真2 手ガリで地面を削る作業(ガリかけ)

遺構検出には「手ガリ」と呼ぶ道具(正式には草刈りホーというらしいのですが・・)を使っています(写真1)。木の柄の先に、二等辺三角形の二長辺に刃の付いた鉄身が差し込まれたやつです。これを手にもって、地面を薄く削り取っていきます。作業員さんに一列に並んでもらい、いっせいに手ガリで地面を削る作業(ガリかけ)を進めていきます(写真2)。でも、いうまでもなく遺跡によって土の質はさまざまです。黄色い地山に黒っぽい遺構の埋土ならば悩むこともないのですけれど、黒の地山に黒の遺構など、土質や土色が分かりにくい場合も多いのです。そんな時は、土の色や質、さらには地面を削る感触・削る際の音の違いにも注意しながら何度も自分で地面を削り、必要ならば同僚とも議論して、最終的に遺構のラインを決定し、遺構の掘り下げ工程に進みます。

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写真3 左が新品に近い手ガリ、右が消耗した手ガリ

さて、ガリかけを続けると刃がすり減ってくるので、グラインダーで刃先を削って整えます。ですから、一現場を終える頃には、新品の手ガリの刃はすっかりちびてしまいます(写真3)。でも、まだまだ使います。ちびた手ガリの刃先をグラインダーで切断し、木柄も短くカットすると、狭い遺構の掘り下げに便利な道具になるのです(写真4)。使う道具は自分で工夫するのが発掘現場の流儀です。

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写真4 手ガリ改(狭小箇所用)
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写真5 左から、手ガリ、幅狭手スコ、幅狭手スコ改(深い穴から土をすくい上げ用)、幅広手スコ

遺構の範囲が決まれば、その中を掘り下げていきます。掘り下げには、主に移植ゴテ(「手スコ」と呼びます)を使います(写真5)。遺構には小さな土器等の遺物が埋まっているかもしれないので、ショベル等の大きな道具ではなくて、まずは手スコで慎重に掘り下げなければなりません。手スコには幅広・幅狭のものがあって、遺構の大きさ等で使い分けます。径が狭くしかも深い柱穴を掘るときには、底の土を掻き上げにくいので、お玉やスプーンを使うこともありますが、私は手スコをくの字におり曲げたものを使っています。
個人的な見解ですが、私にとって手スコが最も使い勝手のよい道具です。刃を地面に寝かすと手ガリのように地面を薄く削って遺構検出ができますし、刃を立てれば削り取った土をかき集めることもできます。さらに刃先の角度と力の入れ方しだいで遺構を細かくあるいは大胆に掘り下げることだって可能です。手スコ1本あれば、大抵の作業ができるような気がしています。だから、手スコは私にとっての逸品の一つです。

辻川哲朗
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