オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 №303 思いもよらない道具の使い方-土嚢袋編-
どこの遺跡の発掘現場でも使われる物の一つに土嚢(どのう)袋があります。土嚢とは、化繊で編まれた袋の中に土砂などを詰め込んだもので、土木工事などの現場や水害時の緊急措置をはじめ戦闘地などでも塹壕や障壁の構築材として利用されます。もちろん我々の発掘現場でも用いられる道具類の中でも最もポピュラーの物の一つです。遺跡の発掘現場の中身はご存じなくても、少しでも発掘現場自体を目にしたことのある方でしたら、ブルーシートを押さえる重しとして土嚢が置かれているのを見たことがあるのではないでしょうか。
また、類例はあまり多くないものの、発掘調査によって土嚢の痕跡が見つかることもあります。この場合、当然のこととして化繊でできた土嚢袋はありません。稲わらなどの植物繊維を編んで作ります。そのため、植物質の袋自体は分解して残存しておらず、形状として見つかることが多いようです。古墳の墳丘築造時に、土嚢を列状に積み上げ、区画ごとに盛土をするという工法があり、その時用いられた土嚢がそのまま埋め殺しにされ、その痕跡が見つかるというものです。土嚢袋そのものとしては、鳥取県の本高弓ノ木遺跡から古墳時代前期のものが見つかっているようです。
今回紹介するものは、遺跡から出土した土嚢袋というわけではなく、発掘資材の一つとしての土嚢袋の思いもよらない使い方ということになります。発掘調査でよく悩まされることが、雨の後や冬場の冷え込んだ朝に霜が立った時、調査地の土の上を歩くと、靴(私は現場では常に長靴を履いています)の底に土がくっついてしまうことです。ひどいときには数センチ背が高くなったんではないかと思えるほどです。また、足が非常に重くなり歩きにくいことといったらこの上ないです。そればかりでなく大事な遺構も壊してしまいかねません。
そこで登場するのが土嚢袋です。これを長靴の上に装着するのです。化繊で編まれてつるつるした土嚢袋で長靴の底の凹凸や踵部分を覆うことにより、土がつきにくくなるのです。装着するといっても袋部分を開けて履くと思いがちですが、そうではありません。デパートで贈答品などを買ったときに店員さんが包装紙で包みリボンをかけてくれるように、土嚢袋を開けないで長靴を包みこみ、紐で縛るのです。袋を開けて履くとブカブカシテ歩きにくく、一重のため強度も保てないからです。これで濡れた土の上を歩いても不快なことにもならず万全だと言いたいのですが、難点も多少あります。装着が一重ではないからといってそれほど強度が上がるわけではありません。
数日もてば良いほうで、早い時には1日で破れてきます。発掘現場で調査に携わる人が多ければ多いほど、雨などで濡れる日が多ければ多いほど、土嚢袋の消耗が激しくなります。なにかこれに代わる頑丈で安価、使い勝手のいいものがあればと思うのですが、なかなか見つかりません。何か良い品があったらお教えいただければと思います。(内田保之)