オススメの逸品
調査員のオススメの逸品 第235回 夏休みの自由研究企画➂ 弓矢の復元実験
縄文時代の弓矢の復元実験をしています。弓は丸木弓、ヤジリは石鏃です。さて、どうなることやら。
1.弓 現在の和弓は竹を張り合わせて作られていますが、縄文時代の弓は丸木弓です。直径3~4㎝の小径の丸木です。そして材は「イヌガヤ」です。
山に入ってイヌガヤを採取してきました(ちゃんと地主さんの許可を取りましたよ)。大きなイヌガヤの枝か細い幼木を採取するつもりだったのですが、あら、びっくり、そんな大きなイヌガヤの木なんて無いのです。だいたい、名前の前に「イヌ」・「カラス」・「キツネ」などを付けて呼ばれているものは本種より劣るという意味です。イヌガヤも真っすぐに大きく伸びるような木はないのです。毎年の積雪で地面に押し付けられたような状態で、細かく分かれた細い幹が谷筋の地面に這いつくばるようにして生えているのです。とてもじゃないが、湾曲した細い木は柱などに使えるものではありません。
木材としては劣った評価しかできないイヌガヤなのですが。丸木弓の多くはこのイヌガヤが使用されているのです。どうしてイヌガヤが使われているかわかりませんでした。出土品は外皮を除いた状態でほとんど加工していないので、弓と同じ直径3~4㎝のものを採取してきました。太さは選ぶまでもなくそのぐらいの太さのものはたくさんあります。あとは枝分かれしていない、変な曲がりが無いものを慎重に選んで採取してきました。
とはいっても、どの木も大きく湾曲しています。真っすぐなものは存在していません。同じような直径で、しかも、もっと弓に向きそうな素直な木は山にいくらでもあります。その中で素直でないイヌガヤを選んで使っていたのはどうしてなのでしょう。
その答えの一つは木を切ってみてすぐにわかりました。直径3センチほどの細い木なのですが年輪が40年以上もあるのです。この細さでこんな緻密な年輪を持つ木は他には無いのです。そして緻密な年輪を持つイヌガヤはしなやかなのです。ヤング率(弾性率を示す目安)とか数値としての強度が優れているわけではありません。とにかく、しなやかなのです。曲げて折ってみようとしても簡単には折れません。弓に求められるしなやかさと強靭さを兼ね備えた木がイヌガヤだったのです。成長が遅く、しかも毎年、雪に押し付けられて真っすぐに伸びることもかなわず、屈折しきったイヌガヤの木は実は強かったのです。
採取してきた木も、出土している弓も、弓型に湾曲していますが、その湾曲をそのまま弓の弧として弦を張ると、引き代がほとんどなく、また強い張りも生まれません。弦は原木の湾曲とは逆の方向に曲がるように張っていたと考えられます。両端部は弦を掛けるために段を付けて細く削られています。
早く弦を張って試射をしてみたいところですが、現在、採取したイヌガヤを蒸して、形を矯正し乾燥させているところです。乾燥させて強度を増し、不要な歪みを直すためです。2次元の湾曲はよいのですが、3次元の歪みがあるとうまく弦が張れないためこれを直します。蒸したのは、矯正しやすくするためで、昔はどうしていたかわかりません。たも網の枠などは無理矢理曲げて固定し、長い時間ほっていました。とにかく矯正が終わるまで時間がかかります。たぶん最低1年ほど。目標は滋賀里遺跡から出土した縄文時代の弓です。さて、どうなることやら。