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調査員のおすすめの逸品 No.4 鉄製品の保存処理の道具 ~グラインダー・エアーブレイシブ装置・メス・筆~

その他

発掘調査では、昔の人々が使用した様々な道具(遺物)が見つかります。その中には、鉄製の武器や農具、銅製の鏡などの金属製品も多く含まれます。しかし、金属製品の多くは、土の中に埋まっている間に錆びてボロボロになっています。また、出土後、空気に触れることで新たに錆始め、急激に劣化が進み、変形・崩壊してしまうものあります。文化財の劣化や崩壊を防ぐために行う手当を「保存処理」といい、その研究分野を「保存科学」と呼びます。
今回は、金属製品の保存処理方法と錆落としに欠かせない道具をご紹介します。
発掘された金属製品の多くは、天ぷらの衣のように、元の形がわからないほど全体が錆で覆われて出土します。保存処理としてはまず、錆に隠れた形や構造をX線透過撮影で確認した後、膨れ上がった錆を様々な道具を使い分けながら取り除きます。その後、アルコールなどで汚れを洗い流します。そして、錆を促進させる原因物質を薬品で取り除き、合成樹脂を浸み込ませて強化します。最後に、割れた破片を接着剤で接合します。
では、錆取りに欠かせない逸品の道具4点を紹介しましょう。

グラインダーと作業箱(埋蔵文化財センター備品)
グラインダーと作業箱(埋蔵文化財センター備品)
エアーブレイシブ装置(埋蔵文化財センター備品)
エアーブレイシブ装置(埋蔵文化財センター備品)

●グラインダー
X線写真で金属製品本来の形状を確認しながら、傷つけないよう慎重にグラインダーで錆を落としていきます。錆が飛び散ると危険なので、集塵機付きの作業箱の中で削っていきます。遺物の状態に応じて、グラインダーの先端工具を使い分けます。柔らかい錆や土はブラシで削り、硬い錆や石はダイヤモンドの粉末付きのカッターやドリルで削ります。

●エアーブレイシブ装置
圧縮した空気と研磨剤をノズルから勢いよく噴出させ、錆を取り除く道具です。研磨剤や錆が飛び散ってしまうので、これも専用の作業箱の中で行います。柔らかい錆や土も、硬い錆も吹き飛ばせるので非常に便利です。
●メス・筆
薄い錆膜や細部の錆は、医療用のメスで少しずつ削ります。土や細かい錆の粉末は、筆で丁寧に払います。
このように様々な道具を使い分けて、金属製品に付着した土や錆を取り除きます。保存処理を行うと、観察しやすくなるだけでなく、展示や保管がし易くなります。また、保存処理中には新たな発見をすることがあります。銅製の耳環(古代の耳飾り)を覆っていた土を慎重に削っていくと、金や銀でメッキした本来の輝きが蘇ります。X線透過撮影をすると稀に、鉄製品の地金に金や銀などを嵌め込んだ象眼が見つかります。学生の頃に在籍していた保存科学の研究室では、このような素敵な発見に出会うことができ、とてもワクワク、ドキドキしました。
現在、私は就職した滋賀県埋蔵文化財センターで、保存処理の他、保存処理後の遺物の定期点検をしています。保存処理はあくまでも劣化の進行を遅らせるもので、完全に劣化を防ぐものではありません。定期的な点検を行い、必要ならば再処理を行います。貴重な文化財を、少しでも長く未来の人々に伝えていくために日々奮闘中です。

(具志堅 有紀)

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