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調査員のおすすめの逸品 №293 「あと少しで届くのに!!」そんなときの便利アイテム - 釣り人が愛するウェーダー  

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みなさんは、川や海などで、水の中に入って釣竿を振っている釣り人の姿をごらんになったことはありませんか?これは、「ウェーディング」といって、ウェーダーと呼ばれる防水性、撥水性の高い胴長靴を着用して、身体を水の中に進めて楽しむ釣りのことをいいます。釣りを経験された方なら誰もが頭をよぎったことがある、「自分が望んでいるポイントまで、ほんのあと少しで届くのに!」という釣り人たちの切実な願いを実現したアイテムなのです。

写真1 ウェーダー
写真1 ウェーダー

さて、このような釣り人のアイテムが、わたしたちが行う文化財調査の中のどのような場面で役に立つのかとお思いでしょう?今回は、わたしがこのウェーダーのおかげで無事に調査を進めることができた体験談を紹介します。

ある日、わたしはとある庭園の測量調査を担当することになりました。調査員として、はじめての庭園の調査です。江戸時代に作庭されたその庭は、美しく整えられた木々に囲まれ、中央に大きな池があり、その周りには大きさも形もさまざまな石が配されていました。巨大な不動石や、石組による洞窟など、多くの創意によって美しい世界を表現しているのです。これらを隅々まで観察し、現状を測量することがその仕事の大きな目的でした。実際に測量に入る前に、まずは周囲を歩き、眺めて、「この石はどう測量しようか」、「この石はこういう表現の方がそれらしく見えるかな」、などと頭の中でシミュレーションをしていきました。そんなときに、ふと気が付きました。池の中には、大きな石=浮島があったのです。さらによくよくみると、ほかにも池の中から顔を出している石がちらほら見受けられます。

写真2 ウェーダーを履いての測量の様子
写真2 ウェーダーを履いての測量の様子

「あれ?やっぱりこれも測量するんだよな?水の中に入って??」「あの石は、もうほんの少し近ければ、ちゃんと測量できるのに!」などとぼやきながら池の深さを確認すると、場所によってはそれなりの深さがあり、もちろん長靴程度でなんとかなるものではありませんでした。
「ついに仕事で海パンまで履くことになるのか~。」と半分覚悟を決めつつ、釣り人でもある大先輩に相談していると、愛用のウェーダーを貸してくださったのです。水の中でも気兼ねなく自由に動けるという感覚は、今までにない快感を覚えました。このウェーダーのおかげで、あらゆる角度から庭を観察することができ、測量の質の向上にも大いに役に立ってくれました。さらに、池の中から外を眺めるという新しい視野を得たおかげで、かつて行われた測量調査では記録されていなかった新しい洞窟の存在を、池の岸辺で確認することができたのです。わたしにとって初めての庭園調査は、ウェーダーのおかげで無事に終えられたといっても過言ではありません。
あと一歩、ほんの少し、とはいえ、わたしたちの仕事の欠くことのできない基礎資料の作成、測量を妥協することはできません。そして、いろんな視野を得ることで新しいものを発見するチャンスも生まれます。もし、わたしの後輩が、測量のために海パンを履くかどうかを迷っていたなら、ぜひこの逸品をおすすめしようと思います。(木下義信)

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