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オススメの逸品

調査員のオススメの逸品 第232回 地域の歴史が早わかり/夏休みの自由研究にも使えるぞ!-『滋賀県の地名』(日本歴史地名大系25)-

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わたしたちが行う発掘調査は現地での作業がメインとなりますが、現地調査が本格的に始まる前に様々な下調べを行います。調査対象となる遺跡周辺の歴史的環境を調べておくことで、見つかった遺構・遺物の解釈や評価に大きく役立つことがあるためです。私の場合、No136で紹介された『近江輿地史略』とともに『滋賀県の地名』という事典を利用しています。

滋賀県の地名
滋賀県の地名

この事典は『日本歴史地名大系』(以下、『地名大系』と表記)という平凡社から刊行されているシリーズの25巻にあたり、滋賀県内の山や川など自然に関する地名はもちろん、歴史的・文化的地名が豊富に記載されています。この事典は都道府県ごとに1巻(京都府のみ2巻)ずつ刊行されており、滋賀県以外の都道府県についても調べることが可能です。基本的に江戸時代の「村」単位ごとに項目が分かれて記載されていますが、その村名の多くは現在大字名として残っているものと合致します。立地環境(近くにどういった山や河川があるかなど)、江戸時代以前の様子、近代化の過程での地域の出来事などが記載され、さらに旧村域の範囲内にある寺社や城跡、遺跡などの歴史的地名についても解説が加えられる構成となっています。1項目でおおよそ半ページ分から1ページ分という分量なので、調べたい項目をサクサクと検索できる便利な書籍です。
就職1年目の昨年度、私は栗東市に所在する蜂屋遺跡の発掘調査担当の一人として現場に臨むこととなりました。滋賀県出身ではあるものの、湖北地域で生まれ育ち、学生時代には京都で下宿生活を送っていた私は、正直なところ栗東市周辺の情報には疎く、一から調べる必要がありました。そこで、「個々の遺跡について詳しく調べる前に、まずは調査地周辺の大まかな歴史的情報をおさえておきたい」と考えた私は学生時代にレポート作成などで幾度となく助けられた、『地名大系』を開くことにしたのです。「蜂屋村」の項目を開いてみると、古代寺院「蜂屋寺」についてや調査地付近に位置する宇和宮神社の歴史などが記載されていました。実際に現地調査が始まってみると、「蜂屋寺」や宇和宮神社に関連する遺物が出土しましたが、それらが「蜂屋寺」や宇和宮神社に関わるものだとピンときたのも、この『地名大系』を確認していたからこそだったのかもしれません。
この『地名大系』のもう一つの利点として、記載されている情報の典拠(どういった古文書や古記録に元となる情報が記載されているか)が明記されていることが挙げられます。より詳しく知りたいと思った際にはそうした古文書等を直接調べればよいとわかるので、芋づる式に検索ができるのです。『地名大系』は今後も私の相棒(?)として活躍してくれるであろうと信頼を寄せています。地域の歴史を知る上での足がかりとなりますので、みなさんもぜひご活用いただければと思います。
ちなみに蜂屋遺跡に関しては「新近江名所図絵」の第266回で紹介されていますので、併せてご覧いただければ幸いです。

山口誠司

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