オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.102 黄色いタンク
わたしたちが担当する発掘調査のほとんどすべては、道路工事やほ場整備などといったさまざまな開発行為により、遺跡に支障がおよぶために遺跡の記録を詳細に取る事前調査です。ですので、調査する遺跡を選ぶことはできません。遺跡は滋賀県内のいたるところにありますから、人里離れた山奥から市街地のど真ん中まで、さまざまな場所で発掘調査を担当することになります。
発掘調査では、日常の手洗いや出土遺物を洗浄するなどのために水が必要になります。市街地であれば、簡易水道を発掘調査事務所まで引き込むこともできるのですが、水道を引き込める現場はそんなに多くありません。山奥の現場や田んぼの真ん中の現場などでは、水道の本管が遠いため、水道を引きこむことができません(お金をかければ可能なのですが、調査費がとっても高くなり、もったいないので・・・)。そうなると、なんとかして水を確保する必要があります。
その工夫として18~20リットル程度のポリタンクに水道水を汲み、毎日車で運んでいます。しかし、現場によっては、さらに多くの水が必要になることもあります。以前に私が担当した現場では、調査地が道路内であったため、調査中は仮設道路を敷設することになりました。仮設道路は未舗装でしたので、車が通るたびに少なからず砂煙が巻き上がります。そこで、粉じん防止のために散水することにしました。散水するといっても、現場事務所には水道が引けませんでしたので、500リットル入りのタンクを軽トラの荷台に積み、毎朝本部事務所で水を汲んで現場に向かい、ポンプで散水することにしました。
このタンク、黄色いプラスチック樹脂製のもので、農家の方々がお使いになっている「あれ」です。200~500リットル入りの各種があり、ちょうど軽トラックの荷台にぴったりの大きさです。
この現場の終了後、タンクは別の現場のプレハブに運ばれ、ポンプを設置したうえで、プレハブの簡易水源として利用されていました。どうも、タンクの便利さにみんな気づいたらしく、その後、タンクの数はすこしずつ増えています。
今私たちが担当している現場でも、この黄色いタンクは大活躍です。プレハブの簡易水源用も含めて、全部で4基のタンクを使用しています。この現場では、小さな石器や玉作り関係の微細な遺物が出土しています。慎重に掘っているのですが、微細な遺物なのでどうしても回収しきれないものがでてくるのです。ですから、万全を期すために、発掘ででてきた土を洗浄し、ふるいにかけることにしています。10人以上の作業員さんに土をふるってもらっているのですが、1日で約700リットルの水が必要になります。しかも、作業場は、軽トラでも上がれない(正確には、天気がよく地面が乾いていると上がれるのですが、雨上がりではスリップして無理でした。)山の斜面。黄色いタンクを不整地走行車(クローラー)に積みこみ、谷川の水をポンプで汲み上げて、作業場まで運んでいます。作業員さんにとっては、泥だらけになるし、単調でけっして楽な作業ではないのですけれども、さまざまな過去の人々の営みを復元するため、微細な遺物でも取りこぼさないように、と思って作業を続けています。
(辻川哲朗)