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調査員のおすすめの逸品№358 土の中の花粉・寄生虫の卵・珪藻化石―微細資料から読み解く―

守山市その他
写真1 スギ花粉化石

 遺跡の発掘調査では、昔の人々が使った壺や甕、舟、農具、剣、鏡、装飾品などいろいろなものが出土します。こうした出土品は発掘調査中も、出土した後の博物館での展示でも私たちは肉眼で見ることができます。実は、肉眼では見ることのできない多くのものが土の中に埋もれています。こうしたものは、遺跡発掘の専門家が見つけるというよりは、他の分野の専門家の出番となります。中には、発掘の専門家でも他の分野の技術を身に着けて自ら土の中から見つける強者もいらっしゃいます。

 肉眼で見ることができない世界、すなわち顕微鏡の登場です。日本の土壌は酸性が強く、乾いた場所では、こうした肉眼で見ることのできない微細なものはほとんど残りません。琵琶湖が中心にある滋賀県では、湖岸を中心にじめじめとした水分の多い場所が多くあります。

写真2 イネ属型花粉化石

 こうした場所を発掘すると水分を含んだ粘土層に当たります。粘土層には、当時の花粉化石、珪藻化石などが含まれています。花粉化石は、現代病で誰もが知っている花粉症で有名な花粉が化石化したものです。珪藻はガラスでできた体を持った単細胞の藻類で、魚のえさなどになります。この珪藻が化石になったものが珪藻化石です。

 花粉化石には、花粉症の代表であるスギやヒノキはもちろんのこと、食べておいしいクリなどいろいろな種類が見つかります。こうして出土した各種花粉の組み合わせや量を古い時代から新しい時代に並べてみると、その地域でどのような樹木が生えていたか、どの時代にどんな樹木が増えてきたか、地域の森の歴史がわかったりします。また、復元された森が、暖かい場所に生える樹木なのか、冷涼な場所に生える樹木なのかが特定されれば、当時の気候なども推測されます。

写真3 珪藻化石

 滋賀県では、花粉症の代表選手であるスギは縄文時代後期(4,000年前)ぐらいから増えてきているようです。弥生時代の湖岸の集落では、スギを使った木製の道具を多用していたので、近くにスギの森があったのでしょう。弥生人が花粉症になっていたかどうかは定かではありません。

 珪藻は海水や淡水に生息する藻類ですので、これらの種類などは生息域や生息環境に違いがあります。珪藻化石からは、その珪藻が含まれている地層が水流のある環境であったとか、淀みのような環境だったがわかります。こうした顕微鏡の下でわかった情報と発掘調査で見つかった遺構や遺物からの情報を組み合わせると当時の人々がその場所でどのような生活をしていたかが、より具体的に目に浮かぶようになります。

写真4 異形吸虫卵の化石
写真5 回虫卵の化石

 最後に寄生虫です。文字通り人や生き物に寄生して生きる虫です。平城京から出土した穴の中には、周囲の穴や土に比べて寄生虫の卵が異常に多いことから、この穴が当時のトイレであることが判りました。トイレのように穴の中ではなく、広い範囲で寄生虫が異常に多い場合は、その周辺は人によって汚染されていた場所であったかもしれません。

 このように土の中には、可視化できるものだけではなく、多くの情報が眠っているのです。 

※写真はすべて守山市赤野井浜遺跡出土。

(中村健二)

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