記事を探す

オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品№367 山・森の現場の必需品―根切りバサミほか―

その他

 発掘調査の対象地は、様々な場所にあります。住宅街の中、田んぼの真ん中、線路の真横、川や湖の中、などなど。当然、山の中や森の中、ということもあります。それぞれの場所によって苦労のしどころが異なるのですが、山や森の場合は、なんといっても木の根の処理が大変です。今回は、そのような木の根との戦いにおいて活躍する逸品たちをご紹介しようと思います。

写真1 右上から根切りバサミ・枝切りバサミ・バール・鉈・のこぎり

 木の根は、おそらく皆さんがイメージするよりもはるかに丈夫で柔軟で、縦横無尽に広がっています。とにかくパワーショベルの爪が、地面に刺さらない!なんとかうまい具合に隙間を見つけて爪を差し込んではがそうとしても、ちょっと大きめの根だと、動きすらしません。はがれたとしても、簡単には切れないので、パワーショベルを動かすたびに根がはねて、うまく土を運ぶことも困難です。

写真2 根切りバサミでひげ根を切る

 このような状態になってしまうので、山や森の調査では、結局機械で除去できるのは表面の腐葉土の一部のみで、ほとんどの部分を人力で掘削することになります。そして、もちろん人力で掘るにしても、広がる木の根が立ちふさがるのです。チェーンソーも、周囲に十分な空間がない場合には使えないので根の除去には適しません。そこで活躍するのが写真の品々。根切りバサミ、枝切りバサミ、のこぎり、鉈(なた)、バールになります(写真1)。

 一番活躍するのは根切りバサミと枝切りバサミです。根切りバサミはひげ根や細い根を切るのに使います(写真2)。大きな根を除去した後には、驚くほど大量にひげ根が残ります。これをきれいに切るか否かで、調査の仕上がりに雲泥の差が出ますので、作業員さんには各自根切りバサミを持っていてもらい、ひげ根の除去を徹底してもらっています。

写真3 枝切りバサミで竹の根を切る

 枝切りバサミは竹の根を切るのに有効です(写真3)。樹木の根でもそこそこの太さまで切れるので、非常に便利です。むしろ、この枝切りバサミがあるかどうかで、山や森の調査における調査スピードが大幅に変わります。ただ、弱点もあります。根を切るとどうしても土や砂を一緒に切ってしまうことが多くなりますが、本来は地上の枝を切るためのものなので、根を切るのに使うとすぐに刃がダメになってしまうのです。結果、切れ味が悪くなるので無理な切り方をするようになり、最終的に折れたりしてしまいます。

 のこぎりと鉈は、枝切りバサミでは厳しいような太さの根を切るときに使います。根の周囲に空間があるならばのこぎりが早いですが、のこぎりを前後させるのに十分なスペースがない場合には鉈が有効です。けれど、鉈は手首やひじに結構な負担がかかるので、あまり連続して使うことはできません。

 バールは重く頑丈な鉄の棒で、竹の切り株を処理するときに使うことが多いです。一端はヘラ状になっていて、もう一端は尖っています。竹は表土の下で横に広がって、何本もつながって生えていることが多く、除去しないとそもそも遺構が見えないので人力で除去するのですが、とにかく硬くて大変です。根はバールで起こしてから枝切りバサミで切って除去していき、切り株はできるだけ周囲の土を除去して、最後は下にバールを差し込んで起こすか、上から鉈で割って外します。ちなみに樹木の場合は根が下に伸びていることが多く、無理に起こすと遺構面を壊してしまうので、そもそも起こすわけにはいきません。周囲の根だけきれいに切って処理します。

写真4 左下:根除去前、中央:主な根の除去後、右上:ひげ根の除去後

 私が現在調査している遺跡でも、慣れないうちは竹の切り株1つを処理するのに半日くらいかかっていたこともありましたが、最近では皆さん20分もかからなくなりました。見学に来た方が、調査地を見て「もともとここにだけ木や竹がなかったんですね」と誤解するくらい、きれいに除去してもらっています(写真4)。ちゃんと道具をそろえれば、人力というのは本当に凄いんだ、ということを実感している今日この頃です。

(阿刀弘史)

Page Top