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調査員のおすすめの逸品№368 復元 紫香楽大仏の鋳造技術―鍛冶屋敷遺跡(史跡紫香楽宮跡)出土鋳造関連遺物【滋賀県指定有形文化財】―

甲賀市

 以前、このコーナーで甲賀市の鍛冶屋敷(かじやしき)遺跡で出土した炉壁(ろへき)について紹介しました(調査員オススメの逸品第199回 古代冶金学の一大成果―甲賀市鍛冶屋敷遺跡出土炉壁)。また、鍛冶屋敷遺跡についても発掘調査成果について紹介しています(近江名所図会 第80回 鍛冶屋敷遺跡-紫香楽大仏に関する重大な発見-)。したがいまして、今回紹介する鍛冶屋敷遺跡の発掘調査成果からみた「紫香楽(しがらき)大仏の鋳造技術」は、私としては「オススメ」を超えて、発掘調査を担当以来、約20年以上「コダワリ」続けた逸品です。

 鍛冶屋敷遺跡は甲賀市信楽町黄瀬(きのせ)、聖武天皇が大仏造立を開始した甲賀寺推定地(史跡紫香楽宮跡内裏野(だいりの)地区)に隣接しています。発掘調査は平成14~15年度(2002~3)に行われました。

 天平15年(743)10月15日、紫香楽宮で出された「大仏造顕(ぞうけん)の詔(みことのり)」には、「国中の銅を尽くして象を鎔、大山を削りて銅を構え」とあります。発掘調査では、大仏鋳造のために鍛冶屋敷遺跡に集められた銅素材を、精錬(製錬で得られた銅を再び溶かし、より純度の高い銅地金をつくる工程)するために発明された溶解炉跡と踏みフイゴ跡が検出されました(図/写真のなかの右上の写真「鋳造関連遺構」)。また、送風孔の付く炉壁、銅塊、「二竈領(ふたつのかまどのうながし:二番目の溶解炉を管理する責任者)」と墨書された土器、梵鐘や台座等大型製品を鋳造するために用いられた鋳型などの遺物も出土しました。

図:発掘調査成果から復元した溶解炉/写真:鋳造関連遺構

 上の図は、写真「鋳造関連遺構」の発掘調査成果と、出土した炉壁を中心とする鋳造関連遺物の検討をもとに考察した溶解炉の「復元」図です。この溶解炉の背後には、踏み板をシーソーのようにギッコンバッタンと踏んで、溶解炉の中に風を送る「踏みフイゴ」という送風装置が伴います。今回復元した「溶解炉」と「踏みフイゴ」は鍛冶屋敷遺跡で発明された可能性があります。この発明は、平城京東大寺での大仏鋳造や古代日本の金属・金属器生産における画期をなす発明であったと考えられます。

 安土城考古博物館では2月10日(金)〜4月7日まで、第69回企画展・滋賀県立琵琶湖文化館連携企画展「近江の文化財を繋ぐ-修理・複製・復元-」を開催します。その中で、今回紹介した鋳造関連遺物のほか、滋賀県指定文化財となっている鍛冶屋敷遺跡出土資料などの実物資料を展示します。企画展の内容や関連講座については安土城考古博物館のホームページをご覧ください。

(大道和人)

《参考文献》

・滋賀県教育委員会(2006)『鍛冶屋敷遺跡』

・大道和人(2013)「滋賀県指定有形文化財考古資料 鍛冶屋敷遺跡出土遺物について」『紀要』第21号 滋賀県立安土城考古博物館

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