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調査員のおすすめの逸品№369 「平成の本物を!」の意識で取り組んだ復元模写―織田信長画像復元模写など―

 長い年月を経た絵画類の多くは、顔料(がんりょう:絵の具等)などの剥落(はくらく)が生じ、汚れや変色などによって、褐色を帯びた沈んだ色味になっています。しかし描かれた当時は、いずれも鮮やかな色彩で、汚れのない姿だったはずです。

写真2 織田信長像原本(頭部)(摠見寺蔵)
写真1 織田信長像原本(摠見寺蔵)

 滋賀県立安土城考古博物館は、開館からしばらくは現代の技術により異素材を用いた複製品を制作していたのですが、平成8年以降、復元模写を制作するようになりました。主に戦国時代の人物の肖像画などを対象に、基底材(絵を描く土台。紙や絹など)や顔料などの素材、技法、手順などを詳しく観察・調査した上で、可能な限り作られた当時の材料と技術で復元しようとする試みです。画家と科学者や装潢師(そうこうし:表具をする人)、そして学芸員らがタッグを組んで、「平成の『本物』を作るんだ!!」という意気込みで、15年の間に10作品が作られました。

写真4 織田信長画像復元模写(頭部)
写真3 織田信長画像復元模写

 写真の織田信長画像は、近江八幡市安土町にある摠見寺(そうけんじ)所蔵の原本(写真1・2)と、その復元模写(写真3・4)です。原本は全体に褐色化が進み、頭部や袴と足、そして上畳の縁などが大きく剥落していました。特に、肖像画の命とも言うべき眼光と表情が不明瞭なことが、比較的古くオリジナリティを残す画像だけに、とても残念でした。しかしながら、ところどころ残っている描線の顔料を丹念に追い、他に残された複数の信長画像と比較検討して、往時の表情を正確に復元することに成功しました。

 模写の作成でまず取りかかるのは、下図作成です。原本と同じ絵を描くためには、「上げ写し」と呼ばれる特殊技術が用いられます(写真5)。原本(現在は原本を危険にさらさないため実物大写真を使用)の上に薄い和紙を敷き、これをめくって原本をじっと見つめ、その残像が瞳と脳裏に残っている間に紙を下ろして少しずつ写し取っていく方法で、時間と手間と集中力が求められます。

写真5 上げ写し(他の画像制作中のもの)

 次に、原本と似た絹目の絹を枠に張って完成した下図を写し取り、絹の表や裏から、観察で確定した種類と大きさの顔料の粒を膠(にかわ)で溶いて描いていきます。信長画像は、袴と足の部分が下書の線を大胆に修正して描かれていることが分かったので、同じ手順を踏みました。

 そうして出来上がったのが、復元模写です。ただ、一点だけ復元できていないことがあります。信長が着ている束帯(そくたい)の文様です。過去の修理で剥落防止のために上からフノリが施されたようで、具墨(ぐずみ:墨に胡粉を少し混ぜた黒色顔料)の上から墨で描いた文様が見えづらくなっていて、復元ができなかったのです。今後、この画像が修理されてフノリが取り除かれれば、鮮やかな文様が浮かび上がるはずです。有名な神護寺の伝源頼朝像が、同様に修理で文様が見えるようになったそうですから。

 信長の画像とその復元模写は、現在開催中の第69回企画展・滋賀県立琵琶湖文化館地域連携企画展「近江の文化財を継ぐ-修理・複製・復元-」(令和6年2月10日~4月7日)の後期展示(3月12日より)で、並んでご覧頂くことができます。同展では、他にも修理や復元、各種の複製品などが展示され、それぞれの考え方を紹介していますので、ぜひご覧頂けましたら嬉しいです。

(高木叙子)

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