新近江名所圖會 第416回　樹下神社を考える―滋賀県内に複数ある同じ名前の神社―

　大津市北郊の三駅、JR湖西線志賀駅（木戸）と比良駅（南比良）そして北小松駅（北小松）の近くには同じ名前の神社が鎮座しています。樹下（じゅげ）神社です。この名の神社はこの三社の他にも大津市真野佐川や山中町、守山市横江町、同水保町、同今宿町などに見られ、滋賀県内に多く祀られています。この中で、私が調べたところ守山市水保町の神社は樹下と書いて「このもと」と読ませています。

　祭神はいずれも玉依姫命（タマヨリヒメノミコト）で、神社によっては鴨玉依姫と称する場合もあります。この神様は綿津見神（ワタツミノカミ）の子供で、一般的には海神系の神様（＝龍神）といわれています。

　玉依姫は、天照大御神（アマテラスオオミカミ）の孫にあたる瓊瓊杵尊または瓊瓊杵尊（邇邇芸命　ニニギノミコト）と大山祇命(オオヤマツミノカミ)の娘である木花咲耶姫(コノハナサクヤ)との間に生まれた火遠里命(ホオリノミコト)(山幸彦)と玉依姫の姉である豊玉姫命（トヨタマヒメノミコト）の間にできた鵜葺草葺不合命（ウガヤフキアエズノミコト）の妻になりました。　叔母・甥（おば・おい）の関係は三親等にあたるため、今なら法的に認められませんが、神話の話なので大目に見てやってください。古代にはこのような関係はたくさんありました。玉依姫は4柱の神を生み、末子の若御毛沼命（ワカミケヌノミコト）は後の神武天皇です。従って初代天皇の母であり、皇室の先祖神と言われています。

　海神系の玉依姫を祀る樹下神社は、水と関係のある神社であろうと考えました。上記のそれぞれの神社の所在位置を確認するために地図で確認していきました。守山市の水保町と今宿町の二社は野洲川の旧流路沿いにあります。また、大津市南比良、木戸、北小松の旧志賀町域の三社は湖西地方の琵琶湖沿いにあり、神社の境内から鳥居を通して琵琶湖に一直線に道が延びています。大津市真野佐川の樹下神社は真野川に流れ込む世渡川がつくる谷沿いにありますのでこれも良しとしましょう。しかし、大津市山中町と守山市今宿町の二社はどうにも水とつながりません。

　そこで、神社の名前である樹下について調べて見ました。何社かの由緒書きなどにもあるように日吉大社とのつながりがありそうなことがわかってきました。日吉大社の東本宮にある摂社の樹下宮（本殿が国指定重要文化財で本殿内ご神座の真下に霊泉の井戸があり、以前はご神水を採っていました。）からの「分霊」や「勧請」といった言葉が見られます。

　また、社名は明治初年頃に現在の名に改称されたという話が多く、それまでは「十禅師社（じゅうぜんじしゃ）」と呼ばれていたようです。十禅師とは天皇の安息を祈り、看病などをした僧侶十人の総称であり、日吉山王七社権現（ひよしさんのうななしゃごんげん）の一つで瓊瓊杵尊を権現と見立てた言葉です。また、十禅師になったのは天台系の僧侶が多いことからも天台宗（延暦寺）との繋がりが見えてきました。神武天皇の祖父である瓊瓊杵尊をあらわした十禅師社は、延暦寺の影響のもと日吉大社の末社に組み込まれて現在に至ったと考えられます。近江国における延暦寺（日吉大社）の影響力の大きさにいまさらながら感服してしまいます。

　江戸時代までは神仏習合の関係で十禅師社と呼ばれていたものが、明治に入って神仏分離政策（しんぶつぶんりせいさく）が実施されたために政府の神道国教化（しんとうこっきょうか）の方針を受けて樹下の名称に変更したのではないかと思われます。

◆おすすめPoint

　湖西地方（旧志賀町域）の三社の本殿からは、鳥居を通して琵琶湖に向かって一直線に道が延びているのがわかりとても見事です（写真2）。しかし北小松の樹下神社は、私が見に行った時には湖西道路の橋脚が参道を跨ぐように造られていました。完成すると道路から神社を見下ろす形になります。少し残念な気がしました。

◆周辺のおすすめの情報

　比良駅と近江舞子駅のほぼ中間地点に天然温泉比良とぴあがあります。露天風呂のある天然の温泉（八雲乃湯）と食事処、敷地内にはマレットゴルフ場や体験工房があり、結構楽しめます。温泉施設の入湯料は高齢者割引きもあり、うれしい限りです。

（三宅弘）

　　　

＜参考文献＞

・滋賀県神社庁1987『滋賀県神社誌』

・寒川辰清著　宇野健一編1976『新訂 近江輿地志略 全』弘文堂書店

※南比良の樹下神社については「新近江名所圖会第195回」も参照ください。

◆アクセス

・北小松914の樹下神社：湖西線北小松駅から徒歩約10分

・南比良98の樹下神社：湖西線比良駅から徒歩10分

・木戸680-1の樹下神社：湖西線志賀駅から徒歩12分

いずれの神社も駐車場なし。