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新近江名所図会

新近江名所圖会 第195回 点と点を結ぶ -大津市南比良の樹下神社・天満神社-

大津市

武奈ヶ岳(標高1214m)や蓬莱山(標高1174m)をはじめとする1000m級の山が連なる比良山系は、古くから畿内を取り巻く清浄な山々の中であり、修験にふさわしい霊山とされていました。承和3年(836)には、嵯峨天皇によって「七高山」のひとつに勅定されています。この七高山には、滋賀県では比良山のほかに比叡山と伊吹山が含まれています。
比良山系を背後に背負う大津市の旧志賀町域には、北小松・南比良・木戸の3ケ所に樹下神社があります。樹下神社は日吉大社山王二十一社の上七社のひとつで、祭神として玉依姫命がお祀りされています。このうち南比良の樹下神社の境内には天満神社が並立し、同じ境内内でまったく別の神社として社殿や鳥居もすべて2つ存在しています(写真1)。

写真1 樹下神社・天満神社の社殿
写真1 樹下神社・天満神社の社殿

これは南北朝期に比良庄にあった比良村が分村し、元和8年(1622)には南比良村と北比良村の別々の村となり、明治5年(1872)に樹下神社を南比良村の、天満神社を北比良村の氏神と定めて境内を両分されたことによります。境内の一角には、樹下神社や天満神社が祀られる以前の、土着の神として祀られていた比良神社のお堂(写真2)や、南北朝期から室町時代初期の作とされる宝塔(写真3)も残されています。

写真2 境内の一角に残る平神社
写真2 境内の一角に残る平神社
写真3 宝塔
写真3 宝塔

おすすめポイント
特にご紹介したいポイントは、樹下神社・天満神社そのものがある位置(地点)です。境内の中に入ってしまえば気づきませんが、一度境内を出て琵琶湖方面への直線道路をしばらく進んで振り返ると、神社の背後に山のピークがほぼ一直線に並んでいることがわかります。神社の背後にある山は、順に天神山・堂満岳・武奈ヶ岳が並びます。さらに直線道路を進み、JR湖西線の線路をくぐって湖岸にいたると天満神社の御旅所と鳥居があり、その先の琵琶湖の対岸には三上山が直線上に見えます。つまり、湖岸の御旅所-樹下神社・天満神社-天神山-堂満岳-武奈ヶ岳がほぼ一直線に並び、琵琶湖の対岸にある三上山もその直線状に並ぶことになります(写真4)。

写真4 神社のある森の背後に天神山・堂満岳・武奈ヶ岳が並ぶ
写真4 神社のある森の背後に天神山・堂満岳・武奈ヶ岳が並ぶ

このような視点で神社と山を見てみると、北小松にある樹下神社は釈迦岳と武奈ヶ岳が並んで見え、木戸の樹下神社も打見山や蓬莱山が直線上に並んで見えます。
比良山は古くから修験の山として信仰され、現在も「比良八講」として3月26日に法会が執り行われています。樹下神社は,元は日吉大社より勧請されており、社殿が建てられた位置には、信仰の対象となる山の稜線が最もよく見えて雄大にそびえて見える「山」を意識した場所が選ばれていたと考えられます。

周辺のおすすめ情報
湖西道路の比良ランプから、かつての比良山スキー場方面に向かうと、「イン谷口」と呼ばれる登山道と、「出合小屋」と呼ばれた建物が残っています。そのすぐ裏手に「ダンダ坊遺跡」として知られる、比良山系で最大級の規模を誇った山寺の遺跡があります。ダンダ坊遺跡は文献資料などにはほとんど名前が見られず、その一方で当時の石垣をはじめとする遺構が良好に残っている逸名寺院です。登山道の起点となるところから遺跡が広がり、比較的容易に訪れることができるため、少し足をのばして訪ねてみられてはいかがでしょうか。
(小林裕季)

アクセス:JR湖西線比良駅から徒歩約10分(樹下神社・天満神社)

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