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調査員のおすすめの逸品 No.47 謎の丸鍬の正体-中兵庫遺跡出土泥除け-
琵琶湖やそこに流れ込む河川が作り出す沖積地は地下水も豊富で、この地域にある遺跡は、内陸部の遺跡では残らない多くの木製品が出土します。こうした木製品の中には、現在使われているものや最近まで使われてきたものと形の変らないものも多くあり、出土した遺物の用途を推理する上での助けになっています。しかし、現在ある木製品からでは、用途のわからない木製品もかなりあります。そうした木製品の一つとして「泥除け」と呼ばれる鍬の内側に付ける木製品があります。
古くは、滋賀県を代表する弥生時代の遺跡である大中湖南遺跡から出土した農耕具の中にもあります。鍬の一種として考えられ、「丸鍬」と呼ばれていました。
そのように呼んだのは、現在の広鍬などの農具に類似したものがないながら、柄を通す穴があることから、鍬の一種ではないかと推定していたからです。しかし、広鍬などとは明らかに木目の方向が違い、鍬としては厚みが薄い点から鍬としての用途に疑問がもたれていました。
そうした中、昭和62年年に福岡市那珂久平遺跡で、鍬の内側にこの丸鍬が装着された例の報告があり、今まで、丸鍬とされていたものは鍬ではないことが判りました。静岡県内に残っていた民俗例や江戸時代の農業書などを照らし合わせ、丸鍬の正体は、泥除けと呼ばれる鍬を深田等で使用する道具であるということがようやくわかりました。
その後、類例がなかなか見つかりませんでしたが、平成8年のある日、草津市中兵庫遺跡の古墳時代前期と考えられる穴の中から、柄に鍬・泥除けを装着した状態で出土しました。
出土した時には、弥生・古墳時代の木製農耕具の知識が乏しかったため、何か鍬先が2個付いている変な鍬が出たなという程度に思っていましたが、事務所に帰って木製品に詳しい同僚に助言を求めたところ鍬と泥除けが装着された状態のものであることがわかりました。さらに、ほぼ完全な形で、装着された状態の鍬が見つかることは、那珂休平遺跡に次いで全国で2遺跡目であることがわかりました。
すごく貴重な事例であったことに驚いたことが、今でも鮮明に甦ります。
(中村 健二)
《参考文献》滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会『中兵庫遺跡』(一般県道山田・草津線単独改良事業に伴う発掘調査報告書)2001