オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.77 緊張する瞬間 ―ローリングタワーを使った全景写真撮影―
街中の工事現場で、建物やビルの外側に鉄管と鉄板で組まれたローリングタワーを目にすることがよくあると思います。このローリングタワーは発掘調査で意外な効果を発揮します。 発掘調査において、遺構の記録手段としては実測作業と写真撮影があります。後者の写真撮影は、位置や形・土質・色調といった遺構の状況を一目で表現(記録)できる効果的な手段です。
なかでも遺跡の全景写真は、それぞれの遺構の分布や広がり、周辺の地形との位置関係を明確に示すことができます。そのためにはできるだけ高い位置からの撮影(俯瞰撮影と言います)が必要です。平坦で組立て可能な場所であれば、どこでも持って行けるローリングタワーは重宝します(やや重く組立てには注意が必要)。ちなみに、遺構ごとの撮影にも使用します。
当協会ではローリングタワー3段分を使っています。高さおよそ5mの1.5畳程度の広さのところでカメラを構えます。この狭い場所で、35㎜の一眼レフカメラとレンズの交換の必要な中型カメラを、手振れしないように三脚を利用して撮影します。最近は、これらに加えてデジタルカメラを使った撮影も行います。その遺跡の広がりや周辺との位置関係が効果的にわかるアングルを決め、光の方向に注意しながら、絞りと露出を決めるのです。もちろん、フィルムの交換やレンズの交換もこの上で行います。
また、撮影にあたっては、遺構の状況を正確に表現するために遺構面を掃除する必要がありますし、天候や時刻(太陽の位置)にも気を使います。面積が広ければ掃除の時間もかかりますので、天候予報を気にしながら、撮影日を計画します。撮影日やその前日に雨でも降ろうものなら……皆の顔が憂鬱に。また、一から掃除のやり直し…。もちろん、遺構写真は撮り直しが効きませんから失敗は許されません。また、撮影のタイミングは調査の進捗を左右します。その意味で全景写真を撮るタイミングと写真の出来は、調査員にとって緊張する瞬間なのです。なお、高い所の苦手な人にとって、タワー上での作業は、違う緊張があったりして(私もあまり得意ではないですが)……。
さらに、経費が高くかかりますが、遺跡の性格や立地に応じて高所作業車による撮影やラジコンヘリコプターによる撮影(図化も可能)も効果があります。
最後に調査員の方々に一言。ローリングタワーの設置時や撮影時には、ケガの無いよう十分の注意を払って、より効果的なショットをねらって撮影してくださいね。
(吉田秀則)