オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 No.89 滋賀県内最大級の弥生土器 -守山市小津浜遺跡出土-
形の美しさや奇抜さ、あるいは精巧な文様やセンス抜群のデザインなど、おすすめの弥生土器は数々ありますが、今回は、守山市小津浜遺跡から出土した滋賀県内最大級の大きさを誇る弥生土器の壺を紹介します。
赤野井湾に面した湖岸近くに立地する小津浜遺跡は、弥生時代前期から中期前半にかけての集落遺跡で、昭和62年度に行った発掘調査では、居住域のほかに方形周溝墓や水田跡・自然流路が見つかっています。遺跡内を蛇行する自然流路や区画する溝からは、弥生時代前期から中期前半にかけての土器が大量に出土していて、今回紹介する大型壺もそのうちの1つです。
大型壺は、算盤玉のような形の体部から細く締まった頸部が長めに立ち上がり、口縁部がほぼ水平になるまで外方へ広がります。口縁端面と頸部から体部上半の外面は、弥生時代中期前半を特徴付ける疑似流水文を伴う櫛描文で飾られていて、形や文様は通常サイズのものとなんら変わりはありません。で、気になるスリーサイズ(?)は、高さ80cm・体部最大径60cm・体部の推定容量60Lとなります。ちょっとピンと来ないかも知れませんが、標準的な広口壺の大きさは、高さ30cm程度で体部容量は1.0~1.5L程度ですから、桁外れに大きいと言えます。湯船に60Lのお湯があればゆっくりと浸かることができますが、これだけ大きいと、粘土を積み上げるだけでも技術が必要ですし、地面を掘り込んだだけの野焼きではうまく焼き上げるのはかなり難しいので、こんなに大きな弥生土器があること自体が驚きの逸品なのです。
全体的にくすんだような色合いの表面をよく見ると、幅2cm程のやや明るい色合いの編み目が浮かび上がってきます。これは、土器を覆っていた目の粗い編み物が密着していた痕跡で、この大型壺のもう1つの特徴です。これだけ大きいと中がカラでも1人で動かすのは大変ですし、中に何か入っていればさらに重量が増えて動かすことができません。そこで、大きなカゴのような編み物に入れておいて、取手を持ち上げたり、担ぎ棒を通したりして運びやすいようにしていたと考えられます。また、自立はしますが体部に比べて底部が小さいので、かなり不安定でいつ倒れてもおかしくありません。そこで、編み物に土器を入れて建物の梁などから吊り下げていたり、柱に括り付けたりしていたと考えられています。
では、この大型壺には何が入っていたのでしょうか? 実のところ、はっきりとしませんが、種籾や液体を貯蔵する容器、あるいは棺桶などなど用途はいろいろ考えられます。数が極めて少ないことが最大の特徴だと言えます。今回紹介した県内最大級の壺は、滋賀県立安土城考古博物館の第1常設展示室で見ることができます。ぜひ、大きさを実感して、謎解きに挑戦してみてください。
(小竹森 直子)