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国見峠之碑

新近江名所図会

新近江名所圖会 第117回 自転車で峠越えvol.1―国見峠―

米原市
(米原市下板並)
国見峠から伊吹山を望む
国見峠から伊吹山を望む(ちなみに3台ともパスハンター仕様ではありません)

東海道・中山道はもとより、ヒト・モノが行き交う多くの街道・古道が張り巡らされていた近江は、道の国ともいえます。新近江名所圖会では、これまでにも中山道擂鉢峠(第79回)深坂古道(深坂越・第64回)信楽街道(源内峠・第97回)をご紹介してきました。
一方で、周囲を山地に囲まれた近江に通じる道は、必ず山越え=峠越えをしなくてはなりません。近江は峠の国ということもできるでしょう。和製漢字である「峠」は、その形が示す通り山越えの上りと下りを分ける境目の地点を表します。この境目は、国境など領地の境となることが多く、今回ご紹介する国見峠も滋賀県(近江国)と岐阜県(美濃国)との県境になります。あわせて自転車での峠越えについても少しご紹介します。

おすすめスポット―国見峠

国見峠之碑
国見峠之碑(平成6年12月国見林道開通記念)

国見という言葉には、『万葉集』の舒明天皇の歌「大和には 群山あれど とりよろう 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙り立ち立つ 海原は かまめ(鷗)立ち立つ うまし国ぞ 蜻蛉島(あきづしま) 大和の国は」(巻1-2)にみえるように、天皇や地方の長が高い所に登って領地や領民の様子を見るという意味があります。その年の農事を始めるにあたって、適地を探して秋の豊穣を予祝した春の農耕儀礼が、本来の国見であったようです。
国見山・国見岳は日本各地にあって、滋賀県には伊吹山系の国見岳(1,126m)と鈴鹿山系の国見岳(1,170m)のふたつがあります。今回紹介する国見峠(850m)は、伊吹山(1,377m)と国見岳との間にある峠で、米原市(旧伊吹町)下板並と岐阜県揖斐郡揖斐川町(旧春日村)美束とを結んでいます。峠からの景色は申し分ないもので、滋賀県側では普段見慣れた姿とは異なる伊吹山の威容を見ることができ、岐阜県側では尾根が重なる雄大な景色が広がります。峠は車が10台程度駐車できるほどの広さがあり、かたわらには石碑や小祠があります。

岐阜県側を望む
岐阜県側(鎗ヶ先・965m)を望む
右側のスペースではアウトドアランチを楽しむご夫婦が
右側のスペースではアウトドアランチを楽しむご夫婦が
もうひとつの石碑
もうひとつの石碑 その内容から美濃国側の想いが

江戸時代中期に膳所藩士寒川辰清(さむかわとききよ)がまとめた本格的な地誌『近江輿地志略』には、美濃路として「長競越(たけくらべごえ)」・「藤川越」・「大久保越」・「加賀川嶺越(かすがわとうげごえ)」・「久加越」・「中尾嶺越」・「島津越」の7道が記載されていますが、「国見越(国見峠)」は見あたりません。しかし、「大久保越」は「大久保村より美濃国種本村へ出づる路也。大久保村より國界へ半里、國界より種本村へ一里歩行難路也。」となっています。すなわち、大久保は板並の下流側の集落ですからここを起点としていることと、種本村の地名は現在には残っていませんが、寛永年間以降明治8年に美束村の一部となるまではかつて独立村が美束の地にあったことをあわせると、この「大久保越」が国見峠を経て美濃国へと至る経路であることがわかります。この記載の通り、江戸時代でも歩くのにも困難な経路で、近江国ではあるいはさほど重要視されていなかった経路だったのでしょう。一方、美濃国としては塩と絹の道として重要視されていたことが、峠に設置された石碑の碑文から知ることができます。現在では国見峠林道として舗装されていますが、滋賀県側では斜面の小さな崩れによる転石や砂が所々濡れた路面を覆っているのに対して、岐阜県側にそのような箇所はほとんどありませんでした。このことも峠道に対する意識の差を示しているような気がします。

おすすめpoint―獲得標高700m!!

下りルートの軌跡
下りルートの軌跡(23.12km,01:28:57)
上りルートの軌跡
上りルートの軌跡(50.90km,06:10:28)

国見峠までの道は舗装されていますから、車・バイクはもちろん、自転車でも辿り着くことができます。峠からの眺望もさることながら、ポイントは何と言っても標高850mまで自転車で自走できる点でしょう。国道1号有数の難所といわれる鈴鹿峠の標高は357mですから、その倍以上の標高地点に自転車で辿り着き、駆け下りる爽快さは格別です。以前自転車で訪れたときには、グリーンパーク山東(標高150m)をスタート/ゴール地点として周回ルートを設定し、上りは比較的緩やかな岐阜県側から峠を目指しました。途中、伴走者の腕時計の高度計が50m以下となった地点もあり、累積標高は800m!!を超えたことになります。
また、徒歩と比べて自転車は長い距離を移動できますので、広範囲の名所・旧跡を一度に訪れることができる点でも有効です。この時のルート(74km)では、岐阜県側で関ヶ原古戦場や美濃国守護土岐一族の墓、願成寺西墳之越古墳群などの史跡を縫って走破しました。さらに、徒歩では見落としがちな小さな起伏(微地形)を、自転車の場合は負荷として如実に体感することもできます。学生の頃は、レンタサイクルで散策なんて邪道だ!と思っていましたが、今では自転車ならではの恩恵に与っています(^_^;)。

周辺のおすすめ情報

三島池(米原市池下)

旧山東町に周囲約910mの楕円形の農業用灌漑用水池があります。西に隣接する三島神社の神池として殺生が禁じられていたため、豊かな生態系が保たれています。特に水鳥の生息地として有名で、昭和32年(1957)にはマガモの自然繁殖地であることが確認されました。その後2年間の山東町立(現米原市立)大東中学校科学クラブの研究により、マガモの自然繁殖地の南限であることが確認され、滋賀県の天然記念物に指定されました(昭和34年)。東側一帯のグリーンパーク山東は、キャンプ場・ゲートボール場・アスレチック広場・テニスコート・ゴルフ場などを備えた総合公園です。宿泊研修棟や日帰り入浴施設(500円)もあります。

道の駅伊吹の里・旬彩の森(米原市伊吹1732-1)

伊吹山麓にある道の駅では、生産者直売の野菜や加工品の販売、各種体験教室が催されています。2階の展望台からは伊吹山を間近に仰ぎ見ることができます。立ち寄った際に糖分補給に食したジェラートは最高に美味しかったです。薬草足湯は夏場だからか冷泉でした。

伊吹薬草の里文化センター(米原市春照37)

伊吹山は古くから薬草の宝庫としても知られています。伊吹薬草の里文化センターには、伊吹山の薬草を楽しむことができる薬草園(無料)・薬草湯(500円)があります。

アクセス

【公共交通機関】JR東海道本線近江長岡駅から近江バス甲津原行き上板並下車約9km
【自家用車】名神高速米原ICから約1時間
【自転車】グリーンパーク山東から23km・下り2時間/上り5時間?

より大きな地図で 新近江名所図会 第101回~ を表示

(大崎康文)

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