オススメの逸品
調査員のおすすめの逸品 №344 遺跡を測る~オートレベル~
私たちは発掘調査によって、遺跡を記録していきます。けれどもそれらの記録は、方眼紙に描かれた線だけでは意味を成しません。三次元の情報である遺跡の姿を二次元の紙に写し取っているのですから、それを元の三次元情報に変換して理解するためには、「平面の広がり」と「上下の高さ」の数字情報が必要です。このうち、「上下の高さ」は標高のことで、日本では東京湾平均海面高度を基準として測量します。今回はこの標高を測るための測量機械である「オートレベル」を紹介します。
オートレベル(以後レベル)(写真1)は、2点間の高低差を測る機械で、建築・土木の現場でも頻繁に用いられます。
使い方としては、まず専用の三脚(写真2)を立てて、その上にレベルを乗せ、ネジでしっかり固定します。三脚の足も、先端がとがっているので、地面にしっかり踏み込んで、動いたり倒れたりしないようにします。レベルには水準器と角度調整用ダイヤルがあるので、これを操作して厳密に水平に合わせます。最後に接眼レンズを覗いて、中の十字線がはっきり見えるように視度調整をします。これで機械の設置は一応完了。けれどまだ作業できません。
作業には「機械高」と呼ばれる情報が必要です。これは、レベルのレンズを覗いたときに表示されている中の十字線の中央交点の標高が何mなのか、という情報です。皆さんは街中で、道路に赤や黄色のプラスチックで縁取りされた鋲が打たれているのを見たことはありませんか?あれは標高情報の基準として打たれたものである場合があり、標高情報を測量したデータがあることもあります。この鋲の上に、本連載の№297(「調査員のおすすめの逸品 №297 変な名前の測量道具-アルミ製箱尺」)で紹介したスタッフを立てて数値を読み取ります。読んだ数値と鋲の標高の数値を足せば、レベルの高さが出るというわけです。
あとは二人一組で、地面に一人がスタッフを立てて、もう一人がレベルで数値を読み取り、先ほど出した機械高から引けば、地面の標高が出ます。これを、溝の底や建物の床など、検出した遺構を三次元的に表現するために必要な各地点について繰り返し、得られた数値を実測図に記入していきます。こう書くと簡単そうに見えますが、まずスタッフが傾いていては正確な情報が得られませんので、慣れが必要です。また、現場ではスピードも求められるので、読んだ数値を引き算して…とやっていると時間もかかるし間違いも起きやすくなります。そこで最近は、レベルを設置する時点で機械高がきりのいい数値になるように立てて記録しておき、図面中にはレベルで読んだ数値をそのまま記入する、というやり方が多くなっています。例えば基準の鋲の標高が98.75mだったら、レベルで鋲の上に立てたスタッフを覗くと1.25mであるように、レベルを立てる時点で調整します。すると98.75+1.25=100.00となり、機械高は100.00mになります。これを実測図の端に記載したうえで図面中にレベルで読んだ数字を記入していくと、最初にレベルを立てるときには確かに時間がかかりますが、測量作業自体は格段に速く、後に引き算をするときにも間違いが起こりにくくなります。
すでに21世紀も20年以上経っているというのに、やっていることは、地面に定規を立てて数字を読み取って記録する、という非常にアナログな作業です。(写真3) こういった測量機械を活用しつつも、遺跡を理解し、記録し、表現するのは結局のところ人間である、というのは、今後も変わらないのでしょう。
(阿刀 弘史)