記事を探す

オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品 №343 粘土(その2)-何も混ざっていない粘土-

その他
写真1 粘土1
写真1 粘土(1)

以前、このコーナーで、縄文時代のものと思しき謎の焼けた粘土のカタマリ「焼成粘土塊」(調査員おすすめの逸品No.307参照)、そしてさらに、「粘土」(逸品No.316参照)という素材そのもの、について観てきました。さて、この「粘土」、まだまだ一筋縄ではいきません。そもそも自然の状態では、少なからず砂粒や動植物の遺骸、繊維などが混ざった状態で堆積しています。これらのものが全くもしくはほとんど混ざらない粘土というのは、実はそんなに多くは採れません。つまりいつの時代であれ、人間が粘土を採取する場合、砂粒や動植物の遺骸、繊維など、微細かつ様々なものが少なからず混ざっているということが、まず前提になります。(写真1)
さて、「焼成粘土塊」(逸品No.307)を紹介した際に、粘土中に砂粒・鉱物等を含むものと、ほとんど含まないものがある、ということについて述べました。この、「砂粒等をほとんど含まない」粘土塊は、上述のように「何も混ざらない粘土」がそれほど多くは採れないのだとすれば、何らかの方法で混ざり物を除去した粘土を用意していた、という可能性を考える必要がありそうです。

写真2 粘土 (2)
写真2 粘土 (2)

土器研究者の多くは、採取した粘土を「水簸(すいひ:採取した土そのものを水の中で溶かして、粘土とそれ以外の砂粒や繊維とを分離する作業をこう呼びます。)」して、砂粒や繊維などを取り除いて、「何も混ざっていない粘土」を作った、と考えています。そしてその上で、必要に応じて砂粒などを混ぜた(この混ぜられた砂粒などのことを「混和材(こんわざい)」と呼びます。)のではないか、と考えています。例えば、写真3の縄文土器の場合、上半部の「立体的に加飾成形された部分」を作るのに用いられた粘土には、一部混和材をほとんど含まない部分があることが確認できます。その一方で下半部の体部などを構成する粘土には混和材が混ぜられています。このような事例は、実は多くの縄文土器で観られます。つまり、「水簸した粘土」と「混和材」をうまく使いこなすことで、より上手く様々な形の縄文土器を作り上げていた、と考えられます。
ちなみに、水簸した粘土は、乾燥させた後もう一度水を混ぜてよく練り、その水分が飛ばないように密閉して、数ヶ月から数年間寝かすことで、十分に粘り気のある、扱いやすい粘土になるそうです。縄文時代でも、そんなふうに時間をかけて粘土を準備し、作り置いた粘土を、必要に応じて少しずつ使いつつ、別に用意しておいた混和材を混ぜたりもしながら、土偶や縄文土器などを作っていたのかも知れません。

写真3 立体的に造形された縄文土器
写真3 立体的に造形された縄文土器

もっとも、上述のような色々混ざった粘土も、そのままでも、もちろん土器の材料に用いることは決して不可能ではありません。ですから粘土を利用し始めた頃は、手近に入手できた粘土を使って土器を作り、そして焼いてみるということを繰り返していたのではないでしょうか。そして時には焼いている最中に土器が割れることもあったのだろうと思います。「なぜ割れたのか?」彼らはその理由を考え、少しずつ、「粘土」を利用しやすいように改良しながら、適宜工夫をしていったのかも知れません。ちなみに、逸品No.307で紹介した焼成粘土塊は、共伴する土器が縄文時代早期後半ごろを主体としていることから、概ね6,500〜7,000年前ぐらいのものだと考えられます。つまり少なくともこの段階には既に「水簸」作業を経て準備された「粘土」があった、という可能性が指摘できるでしょう。
(鈴木康二)

Page Top