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オススメの逸品

調査員のおすすめの逸品 №352 意外に便利ー文鎮ー

その他
写真1製図用文鎮大·小
写真1製図用文鎮大·小

文鎮といえば、普通は書道で使う「アレ」ですよね。半紙を押さえる細長くて四角い金属の棒。皆さんも小学校の習字の授業などで触れたことがあると思います。実はその文鎮、私たちの仕事の中で、かなり活躍しているのです。
とはいえ、私たちが子供の頃に触れていた、あの細長いやつとは形が違います(写真1)。「製図用」として販売されているもので、ご覧のとおり、背の低い円柱形。大きい方が直径8.2㎝で重さ940g。小さい方が直径4.6㎝で重さ350g。高さは両方とも2.9㎝です。
この文鎮が主に活躍するのは、整理作業の場。中でも、接合・復元作業、そして写真撮影の時です。まず接合・復元作業では、土器の破片を一つずつ確認し、接合するとわかったら接着剤で接合していきます。土器は曲面を形成するものが多いので、接着剤が乾くまでにゆがまないようにしなければなりません。そのため、接合した土器を洗濯ばさみで固定したり、支柱を作ってささえたりするのですが、その際に土器が転がったり滑ったりすると、ゆがむどころかより壊れてしまいかねません。そこで文鎮の登場です(写真2)。

写真2 土器の接合・復元作業に使用
写真2 土器の接合・復元作業に使用

私たちが使うこのタイプの文鎮は、鉄製の芯の表面に合成皮革がかぶせてあるもので、土器に触れても傷をつける心配がありません。この文鎮で、土器が転がったり滑ったりしないように押さえておくのです。また、大型の土器の復元作業などの場合は、丸みを帯びた大きな破片どうしを接合することがあります。このような時にはしっかりした支えが必要になりますが、重さのある文鎮は置いたときに安定するのでとても便利です。
写真撮影の場でも、文鎮はかなり頻繁に使います。土器の撮影には、横から撮影する場合と、破片を並べて真上から撮影する場合があります。真上からの撮影の場合、破片の残り具合によっては普通に並べただけでは高低差が大きくて、全部にピントが合わなくなります。そこで、それぞれの破片の下に支えを入れて、高さを揃えつつ、転がることがないようにするのですが、大きい破片なら文鎮で支えることがしばしばです(写真3)。横からの撮影の場合、特に丸底の壺や甕などの撮影では、真上からの撮影の時以上に、土器が転がらないような注意が必要です。そんな時には、文鎮にさらに布や綿を巻いて、土器に不要な力がかからないようにしつつ、中に入れて重さをかけることによって、転がらないように安定させることができます(写真4 とはいえもちろん注意は必要です)。

写真3 写真撮影の際のものの支えに使用
写真3 写真撮影の際のものの支えに使用
写真4 文鎮を綿でくるんで重しにします
写真4 文鎮を綿でくるんで重しにします

このように日々活躍している文鎮。私は正直なところ、中学校卒業以来、長らく触れていなくて、この世界に入ってから「こんなによく使うものなんだ」と実感しました。とてもシンプルで誰でも知っているのに、私たちの仕事では欠かすことのできない、地味ながらまさに「逸品」といえる存在ではないでしょうか。

(阿刀弘史)

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