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調査員のおすすめの逸品№354  雨天の来訪者

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 私たちが発掘調査をしていると、多くの方が調査現場を訪れてくれます。散歩がてら通りかかった地域の方や、珍しいモノが出ているという話を聞きつけた考古学関係の人達、差し入れのアイスをもった職場の上司などなど。

写真1 雨後の遺構にたまった泥水

しかし、遺跡にやってくるのは「人」だけではありません。調査現場には「人」を含めて、遺跡の周囲に生息している様々な「生きもの」もやってくることがあります。私たちは道路や公共施設の開発事業に先駆けた発掘調査を担うことが多く、そのため、これから建設が予定されている場所として水田や畑跡、山林等になっている土地を対象として調査することが多々あります。調査は、そこで生活していた「生きもの」たちの住処(すみか)の一部を破壊していることもあり、「生きもの」が調査対象地の中に迷い込んでしまうのです。

 今回の「調査員のおすすめ」記事では、雨の日になるとコッソリと調査現場にやってくる生きものたちを中心に、ご紹介したいと思います。

写真2 アメリカザリガニ

 発掘調査は数か月から数年かかる時もあり、いつも青空の下でできるとは限りません。雨が降ったために足元が弛み、適切な調査が行えないと判断される時もあります。また悲しいことに、大雨が降った翌日には、調査対象地が完全に水没している場合も少なくありません。調査を進めていくためには、それら溜まった水を抜く作業が必要になってきます(写真1)。掘りかけの土坑(どこう)(どこう:昔の人が何らかの目的で掘った穴)に溜まった泥水を柄杓(ひしゃく)ですくっていくと、アメリカザリガニや、ゲンゴロウ、時にはドジョウやモロコといった魚がその中に取り残されていることがあります。さらにそれらを捕食するためにサギやカラスが調査現場の中を闊歩(かっぽ)(かっぽ)し、足跡を残していくこともあります。

写真3 ハイイロゲンゴロウ

 アメリカザリガニ(写真2)は特によく見かける生き物であり、土坑の中に1匹ずつ入っていることがあります。鳥に食べられてしまったものや、干上がってしまった亡骸(なきがら)(なきがら)を見かけることもしばしば…。住処となる巣穴を堂々と掘っている彼らを調査地の中で発見すると、調査員たちは困惑してしまいます。

 また、泥水の溜まった水面を覗き込むと、黒豆サイズの生き物がせわしなく浮き沈みしている様子を見ることができます(写真3)。図鑑で調べてみると、それらはハイイロゲンゴロウという種類の小型のゲンゴロウ類だそうです。彼らは水溜まりが干上がると、ブーンという羽音(はおと)(はおと)を立てながら、近くの水場へ飛び去ってしまいます。

写真4 ドジョウ

 ドジョウ(写真4)は大きな水溜まり状になった所でよく見かけます。滞在地の水が無くなると、器用に体をくねらせながら、地表を(は)(は)って移動する姿を見ることができます。

 写真5はモロコという種類の淡水魚です。調査地の(そば)(そば)を流れる用水路の水が溢れ出たために、流されてきたのかもしれません。私はまだ会えていませんが、発掘現場でナマズを捕まえたという調査員も…(羨ましい!)。

 豊かな湖国の地に住まう様々な生き物が発掘調査現場へとやって来ます。

写真5 モロコ

 最後に、カエルについても書こうかなと思いましたが、苦手な方も多くいらっしゃるようなので、今日はこのくらいにしておきましょう。もしお住まいの近くで発掘調査をしている場所があったならば、調査員に一声かけて、雨の降った翌日にバケツと虫捕り網を持って訪れてみてください。皆さんも彼らに出会えるかもしれません。

(佐藤巧庸)

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