調査員の履歴書
『インタビュー/調査員の履歴書』№25 スモールライトだけで夜に飛び出す
Q こんにちは。今日はいろいろお尋ねします。まずは、お名前とご所属をお願いします。
A 髙島悠希です。調査課に所属しています。
Q どんな仕事を担当されているのですか。
A 現在は調査課に所属しており、発掘調査を行っています。大学生時代のアルバイトにて、初めて発掘調査を経験してからはや7年、学ぶことが非常に多く自己研鑽の毎日を送っています。
Q 文化財や考古学に関わる仕事に就いたきっかけは?
A 私の出身は愛知県の瀬戸市という街で、六古窯のひとつに数えられる「瀬戸焼(せともの」の名産地です。実家は瀬戸物生産を営んでおりまして、幼い頃から陶器・磁器に触れる機会が非常に多かったように思えます。そういった環境の中で過ごしていくうちに、自分たちが普段の生活で使用している「やきもの」の源流は、どこに求められるのか、ということに興味を持つようになりました。もともと各教科の中でも日本史が大好きであったこと、実家が瀬戸焼産業を営んでいることもあいまって、当時の髙島少年は歴史に携わる仕事に就きたいなぁ、と漠然と考えるようになるわけです。
Q おお。ある意味「なるべくして、なった」みたいな感じですね。
A しかしながら、海にたゆたうクラゲのようなふわふわとしたその考えは、次第に荒波にさらわれ薄れていきます。高校生時代、子どもたちと関わることも非常に好きだった髙島青年は、保育園の先生になろうと思い、その資格を取得できる愛知県の大学へ進学しました。当時高校3年生となり、自分の人生を自身で選択しなければならない進退窮まる状況から逃げるため、4年という人生の選択考察時間の延長を得るために大学へ進学したといえば、否定できません。気づけば、その大学に入学してから1年と数ヶ月もの月日が経っていました(当時、本当に先生になりたいのか自問自答)。
Q いろいろ悩んだんですね。よくわかります。それで、高島青年はどうしたんですか?
A そのような最中、ふと小・中学校時代のプリント類を整理していると、過去の自分が歴史好きで歴史に携わる仕事に就きたい、と考えていた髙島少年時代の記憶が蘇ってきます。私は、本当にやりたかったことを思い出し、このままじゃだめだ!歴史を学ぼう!そしてあわよくばこの断固たる決意に便乗して地元を出よう!と、一億の夜を突っ走る気持ちで考えました。
Q ・・よくわからなくなってきましたね笑。それで、突っ走った結果、どうなりましたか?
A 歴史を学ぶならどこで学ぶか?京都一択でしょう!と、当時『四畳半神話体系』にはまっていた髙島青年がそう思いつくのも無理はありません。
Q ・・そうですか。思いついちゃいましたか。・・まあいいでしょう。ちなみに『四畳半神話体系』って、森見登美彦さん原作の小説・アニメですよね。京都市左京区を舞台にした、大学生が主人公の。高島青年もいろいろ影響を受けたんですね。
A そうです。それで、昔から発掘調査に興味があり、歴史の中でも殊に考古学を学べる大学に編入したい、と考え京都府に所在する京都橘大学への編入を目指します。しかしながら、これまでまともに歴史の勉強をしてこなかった自分にとって、歴史を学びに専門の大学へ編入することは、スモールライトだけで夜に飛び出すくらい無謀なことでした。編入するまでのあいだ、ひたすら、これまでにないほど勉強し、当時の大学の先生や友人、両親が支えてくれたこともあって、無事に合格することができました。
そんな感じで、無事に京都橘大学へ編入できた髙島青年は、良き先生と仲間に巡り合い、瀬戸焼の源流となる「須恵器」という焼き物の勉強と研究とを進めていくようになるわけで、この大学生時代に今の基礎が培われていきます。
Q 今でもいろんな人が高島青年をいつも助けてくれていますよね。とってもいい関係がそこにあるなぁと見ていますが、そんな感じで社会人3年目。仕事を通じて何か考えることはありますか。
A 発掘調査の中で建物跡をはじめとした遺構を検出すると、必ずといっていいほど土器が出土します。こうした土器に実際に触れると、当時この遺跡に住んでいた人々は、どういったことを考えて生活していたのか、としばしば思います。山や谷などの景色は今も昔もほとんど変わりませんから、周囲を見渡して、何百年、千何百年前にこの地で生活していた人と同じ景色をみているんだなあと、手にとった土器を通じて考えると、何か感慨深いものがあります。

Q なるほど。現場に立ち、時間の流れの中で、いろいろ思いを馳せているわけですね。調査の前線ならではの醍醐味ですね。最後にひとことお願いします。
A 「お酒」、「旧車」、「須恵器」という3つの単語を聞くと、おもわず笑みがこぼれてしまう自分ですが、仕事と趣味、そして日々の自己研鑽を楽しみながら過ごしています。毎日が勉強ですが、先輩職員や同期たち、大学時代の先生や仲間の支えがあり、今の自分があるように思えます。スモールライトだけで飛び出してみましたが、ようやくヘッドライトの明かりが付いてきたのではないでしょうか。
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(たかしま ゆうき 調査課)