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新近江名所図会

新近江名所圖会 第10回 石山貝塚-縄文人DNAを呼び覚ます-

大津市
大津市石山寺1丁目
石山貝塚とシジミのモニュメント
石山貝塚とシジミのモニュメント

大津市域には、大津宮、比叡山延暦寺をはじめとして一度は訪れてみたい歴史遺産にこと欠きません。そのなかで今回とりあげるのは石山寺・・・ではなくて、石山貝塚です。
ご存知のとおり、石山寺は天平十九年(747年)、良弁の開基になる寺院で、孝謙上皇と道鏡のロマンスで知られる保良宮や物資の集散地である勢多津にも近いことから、律令政府の国家的事業として造営されました。平安時代には日本有数の観音霊場として貴族の厚い信仰を集め、近世には西国三十三所観音巡礼の第13番札所として庶民に親しまれた名刹です。
その石山寺門前にある市営駐車場の地下には、いまから約7000年前の貝塚が眠っていることをご存知ですか?縄文時代を勉強する人にこの名を知らない人はいないくらい有名な遺跡で、大津市の史跡に指定されています。石山寺の存在感に押されて一般には知られていないかもしれません。貝塚の規模は東西約10m、南北約40m、厚さ約2m。これだけの範囲にセタシジミの貝殻がびっしりと積み重なっていました。海岸部の貝塚にも劣らない、これほど大きな内陸性の純淡水貝塚は琵琶湖にしかみられません。

おすすめPoint

石山寺前の緩やかに流れる瀬田川
石山寺前の緩やかに流れる瀬田川

常緑広葉樹に覆われた伽藍山の山裾が瀬田川河畔にせまり、そのあいだにある、ほどよい平坦地には、かつては白い貝殻がたくさん散乱していました。現地に立って注意深く観察すれば、いかにも縄文人が好みそうなロケーションの面影を認めることができるでしょう。石山寺が建立されるはるかむかし、あたりが森林と葦原に覆われていたころのことです。
縄文人の気分を想像して、今日は早出してフナを捕まえたから、明日は愛犬をつれて山へイノシシを狩りにゆこう。もう少しすれば対岸のよどみにヒシが実るころだ・・・・と想いが広がってきたら、あなたの縄文DNAは健在です。
駐車場の一段上には観光案内所があり、石山貝塚の剥ぎ取り断面と出土遺物の写真が展示されています。1kmほど上流の京阪石坂線石山寺駅近くに蛍谷貝塚、さらにJR琵琶湖線鉄橋より300m北側の湖底には粟津貝塚があります。瀬田川付近は奈良時代の遺跡ばかりでなく、縄文遺跡の遺跡も豊富です。残念ながらどちらにも遺跡を示す標識はありませんが。

周辺のおすすめ情報

石山寺
石山寺

ここまできたら石山寺へ参詣しないわけにはいきません。境内には国宝の本堂と多宝塔、重要文化財の東大門、鐘楼のほか、寺の名称のもとになった珪灰石(天然記念物)の岩盤があちこちに露出しています。
余談ですが、石山寺周辺は銅鐸の出土地としても知られています。「石山寺縁起」絵巻は造営に際して「宝鐸」が出土したことを伝えており、これが銅鐸の出土を示していると考えられています。また、文化三年(1806年)には高さ90㎝あまりの銅鐸が周辺で出土しており、石山寺所蔵品として現在は奈良国立博物館へ寄託されています。
周辺は紫式部も好んだという景勝地で、「石山の秋月」として近江八景に数えられています。観光地らしい喫茶店やレストランがあるほか、定期観光船でリバークルーズも楽しめます。

アクセス

【公共交通機関】JR琵琶湖線石山駅から京阪電車石坂線に乗り換え石山寺駅下車、徒歩10分。バスはJR琵琶湖線石山駅から京阪バス石山団地・新浜・大石・南郷二丁目東行きで約15分、石山寺山門前下車
【車】 名神高速道路瀬田西IC下車10分・瀬田東IC下車15分、石山寺前の有料駐車場を利用


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(伊庭 功)

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