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新近江名所図会

新近江名所圖会 第11回 安義橋-怪異スポット-

近江八幡市竜王町
近江八幡市倉橋部町~竜王町弓削
安義橋
安義橋

境界というのは怪異が起こりやすい。時間としては、昼と夜の境界である「彼誰時(かわたれどき)」など。空間では、山の両 側を繋ぐ「トンネル」が現代の心霊現象のスポットとしてテレビなどでよく取りあげられます。しかし、トンネルの無い時代に は、何と言っても川の両岸を結ぶ「橋」が鬼や妖怪が出没する場所として一番でした。今回取りあげる「安義橋」は、日本史上 10指にはいると言っても過言でないほど鬼が出没したことで有名な橋です。
『今昔物語』巻第二十七に「近江国の安義橋の鬼人をくらふこと」という話が載せられています。近江国守の館で若者たちが 雑談しているうちに、この国の安義橋に鬼が出没するため無事に渡れる者がいないという噂が話題となります。その内の一人が 勇んで館で一番の馬に乗り橋を渡ったところ、女に化けた鬼に出会いました。命からがら逃げ帰りますが、後日、陸奥国に行っ ているはずの弟に化けて訪れた鬼によって、ついには命を落としてしまったという話です。
古代、近江国蒲生郡には安吉郷があり、現在の近江八幡市南部から竜王町北部あたりに想定されています。また、平城京跡か ら出土した藤原京期の木簡にも「近江国蒲生郡阿伎里」と記され、「安義」「安吉」「阿伎」いずれも「あぎ」と訓み、『今昔 物語』の安義橋はこの安吉郷のどこかの川に架かっていた橋と考えられます。
現在、主要地方道近江八幡竜王線が日野川を渡る場所に架かる橋に「安吉橋」という名がついています。橋の北側、倉橋部 集落には安吉神社も鎮座し、さらに神社の南側一帯からは白鳳期の古瓦が散布することが知られ、寺院が存在してたことが以前 より指摘されています。また、この寺院の建立にあたっては、渡来系氏族の安吉勝(あぎのすぐり)氏が関与していたものとみら れています。意外と現在の橋の位置は今昔物語の安義橋を踏襲しているのかもしれません。ちなみに現在の橋は、平成18年に架 け替えられたものです。

おすすめPoint

この安義橋の鬼の話を題材にした映画が作られ、小説が書かれています。映画は1984年公開の「アギ 鬼神の怒り」。小説は夢枕 獏さんの短編「安義橋の鬼、人をくらふ語」で、『ものいふ髑髏』に収められています。これらの映画や小説によって「安義橋」 は一躍怪異スポット界のスターダムに上りつめたのです。なお、『今昔物語』には、事件の後、鬼を退散させるため様々なことを 行ったので、今は何事もないと結ばれています。ですから皆さん安心して安吉橋を渡って下さい。

周辺のおすすめ情報

安吉神社の流鏑馬像
安吉神社の流鏑馬像

倉橋部集落背後の山麓に鎮座する安吉神社の境内隣接は、地元の方達によって「やぶさめの里公園」として整備されています。 毎年5月5日に倉橋部では流鏑馬(やぶさめ)が行われていますが、これは天智天皇7年5月5日に蒲生野で遊猟が行われたことに ちなむそうです。

アクセス

【公共交通機関】近江八幡駅より近江鉄道バス「竜王ダイハツ」行き「倉橋部」下車徒歩8分
【車】 名神高速道路竜王インターIC下車20分、駐車場無


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(内田 保之)

参考資料
・『今昔物語』
・田路正幸「「倉橋部廃寺」雑考」『紀要』第2号 財団法人滋賀県文化財保護協会 1989

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