新近江名所図会
新近江名所圖会 第120回 よくわかる山城遺構 -田屋城-
滋賀県は全国屈指の城郭分布数を誇り、安土城や彦根城をはじめとする著名な城郭が数多くあります。「城」といえば多くの方は彦根城のような石垣があって天守を備えた、いわゆる近世城郭をイメージされると思いますが、そのほかにも山の中に築かれた土作りの城、「山城」も数多くつくられていました。今回はそうした山城探訪の初心者の方でも遺構が認識しやすい、田屋城をご紹介したいと思います。
田屋城は高島市マキノ町森西にある、標高約310mの「城山」と呼ばれる丘陵上に築かれた山城で、在地土豪の「海津衆」の一人である田屋氏の城とされています。城への登山道へは動物除けの柵を開けて入らなければなりませんが、道中に分かれ道などはなく、城跡まで迷わず進んでいくことができます。曲がりくねった道をひたすら歩き、最後に急な坂道を登り切れば、土塁で囲まれた6か所の曲輪で構成される城内に到着します。ただし、訪れやすい山ではあるものの、日当たりの良い場所では草木が生い茂っている場合がありますので、現地を訪れるのは秋から雪が降るまでの晩秋か、雪が溶けた春先がおすすめです。
おすすめポイント
田屋城のみどころは、高い土塁に囲まれた広い曲輪と、土塁を屈曲させた虎口(出入口)、そして大規模な堀切といった、城の遺構が良く残っているところです。「奥の丸」と呼ばれる曲輪が主郭と考えられていますが、この主郭では全周がひときわ高い土塁で囲まれていますので、土を盛り固めてつくった土塁の様子がよくわかります。また、主郭への出入口となる虎口は、土塁を屈曲させた「内枡形」と呼ばれる構造で、最も重要な場所への直線的な侵入を防ぐための施設です。主郭の背後には、尾根筋を遮断する目的でつくられた、県下でも最大級の規模を誇る堀切が設けられています。さらに注意深く地形を観察すると、斜面部分には、横方向への移動を困難にするための竪堀と呼ばれる多くの空堀を見つけることができます。城を構成する防御施設がコンパクトかつ良好な状態で残っているため、城の遺構をわかりやすく見ることができます。
周辺のおすすめ情報
動物除けの柵を通過して登山道に入るとすぐに、稲山隧道への案内板があります。この案内板を右に曲がれば田屋城へ、直進すれば稲山隧道に行くことができます。稲山隧道は、森西集落の水田水利のために掘られたトンネルで、明治28年(1895)に着工し、明治33年に完成しました。総延長300mもあり、当時の工事の苦労が偲ばれますが、そのおかげもあって現在でも森西の水田を潤しています。
アクセス
【公共交通機関】JR湖西線マキノ駅から徒歩約45分
【自家用車】国道161号線沢ランプから北西の森西方面へ約5分(森西集落からは案内板あり)
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(小林裕季)
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