新近江名所図会
新近江名所圖会 第132回 ちはやふる神の社 ―近江神宮―
小学生の頃、校内で「百人一首かるた大会」があり、大好きだった子と同じグループになった私は、それはもう必死で百人一首を覚えたものでした。その子の気を引きたいがため、そのためだけに・・・。おかげで70首くらいは覚えたかしら。世のお父さん、娘が頑張る時とは大概そういうモノでございます...。
いやいや、そうではなくて、純粋に一途にかるたに向かい合う高校生が今注目されていることはご存知ですか? 漫画『ちはやふる』(末次由紀作、講談社)は、主人公がかけがえのない仲間やさまざまなライバル達と出会い競い合いながら、競技かるたでクイーンを目指す、それはすばらしい汗と涙の文科系スポ根漫画です。その中で「かるたの殿堂」としてとりわけ印象的に登場するのが近江神宮です。
近江神宮は、小倉百人一首の巻頭歌「秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ」を詠んだ天智天皇を祭神とする神社です。天智天皇が遷都した大津宮のゆかりの地に天智天皇を祀る神社を建立することは、明治末年以来、滋賀県・大津市の長い造営請願運動の末、昭和15年(1940)11月に創建されました。造営費は県費・市費と寄付金で賄われ、整地工事は大津市内外の中学男子生徒をはじめ、多数の人々の勤労奉仕によって進められたそうです。昭和の神社建築の真髄を結集して設計建築したとされる社殿は、大津宮という聖地に地元の人々の願いが込められた威風堂々の風格。朱塗りの色も鮮やかな桜門。なるほど、近江神宮は、潔い清清しさと若々しいエネルギーとをあわせ持つパワースポットだったのですね。
また、日本の時刻制度の始まりが、天智天皇が大津宮に漏刻(水時計)を造って時刻を知らせたという由縁から、境内には漏刻の復元模型や時計館宝物館が併設されています。時計館1階には、アンティークの素敵な腕時計や、探偵を気取りたくなるような懐中時計、お婆ちゃん宅にあった懐かしい和時計など、古今東西の珍しい時計がずらりと展示されています。どちらかと言えば男性が夢中になりそうな・・・。また2階の宝物館には、日本を代表する画人である曽我蕭白が描いた「楼閣山水図屏風」(重要文化財)の複製や、方相氏(ほうそうし:昔の宮中の儀式で悪鬼を追い払った役)の面など、近江神宮所蔵の貴重な文化財を見ることができます。そう、どちらかと言えばご年配の方が興味そそられる逸品が・・・。そして2階展示室の一画では、今だけ、平成25年1月6日までの間だけ、「ちはやふる 複製原画展」が開催されています! 漫画を読んだことのある人なら「あっ、あのシーン!」と思わず前後のストーリーまで思い出せる色鮮やかな世界が、お子さまやそのお母さま、はたまた若い女性達を魅了しています。家族で参拝した後や、デートの行き先として、誰もが飽きずに喧嘩せずに見て回れて満足できる、貴重なお出かけスポットと言えるかも・・・。漫画とコラボできるのも、近江神宮ならでは?! 斬新な取り組みが素敵です。
おすすめPoint
大津市内を走る京阪電車石山坂本線では「ちはやふる」ラッピングトレインが運行中(平成25年8月31日まで)。車内広告はもちろん吊り革までが「ちはやふるワールド」と化した車内、じっくり読み込んでしまい、下車することを忘れてしまいそう...。 しかし、偶然乗り合わせたお父さんたちはどのような反応を示されるのでしょうか...。 ただの漫画と侮るべからず。なんと言っても「このマンガがすごい!2010」第1位に輝いた超オススメ漫画なのですからッ! 娘さんに単行本をプレゼント・・・なんてした日には、お父さんの株も上がるかも?!
周辺のおすすめ情報
○ 百人一首つながりでもうひとつ。第10歌の蝉丸が詠んだ「これや此行くも帰るもわかれては しるも知らぬも逢坂の関」。逢坂は京都府と滋賀県の間(国道1号線の逢坂山の峠付近)にあり、近江を示す代表的な歌枕です。この歌では、人々の出会いと別れの場面として登場しています。蝉丸は京でも名高い琵琶の名手でしたが、逢坂山に隠棲していたとも言われていて、関蝉丸神社(上社・下社)に合祀されて音曲芸道の祖神としても信仰を集めています。
ちなみに「逢坂」は「逢う」とかけて、第25歌「名にし負はば・・・」、第62歌「夜をこめて・・・」の恋歌の中にも登場しますよ。
○ 近江神宮2階宝物館に展示されている「楼閣山水図屏風(複製)」の現品(重要文化財)は、琵琶湖文化館に寄託されています。現在、館は休館中ですが、近江の文化財の素晴らしさを多くの方々に知っていただこうと全国各地で出張展示を行っていて、この屏風も近江を代表する文化財のひとつとして出展される予定です。
次の出展予定は、静岡市美術館『滋賀県立琵琶湖文化館が守り伝える美 近江巡礼 祈りの至宝展』(会期:平成25年1月2日~2月11日)です。
何がきっかけになるかわかりません。漫画でも文化財でも、多くの方が滋賀に目を向けて下さったなら・・・ それは非常に嬉しいことだと、私は思うのです。
参考文献
大津歴史博物館(2004)『大津 歴史と文化 ―身近な歴史再発見!―』
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(あきつ)
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