新近江名所図会
新近江名所圖会 第14回 タラヨウ-日吉大社東本宮-
オガタマノキ、サカキ、クスノキ、ユズリハ、ナギなど神社の社叢に特異的に見られる樹木はそれぞれに歴史的な植栽の理由があるようです。モチノキ科モチノキ属のタラヨウ( 学名は Ilex latifolia Thunb. で、種小名のlatifolia は広葉という意味。 漢字では多羅葉の字をあて、常緑高木で、本州関東以西~九州、中国に分布します。)もやはり多くは神社仏閣に見られます。
タラヨウが神社やお寺に多いのは、この木の葉を火にあぶると現れる図柄によって吉凶を占ったという宗教的な習慣が関係しているものと言われます。確かにタラヨウの葉を火にかざすと炎の熱を受けた部分の組織が破壊され、短時間のうちに黒く変色した環状の模様(死環といい、細胞内成分のタンニンが急激に酸化されて黒変して現れます。)が浮き上がります。
しかしながら、タラヨウが有名なのは別名「ハガキの樹」と言われるように葉の裏に釘などを使って字を書くとその文字が死環と同様にタンニンの変化で黒く浮き上がる現象でしょう。戦国時代には、実際に通信に使われたという話も聞きます。ただ、ハガキは本来、端書で、「葉に書く」が語源ではないという記載もあります。近江八幡郵便局の前栽には郵便局のシンボルツリーとしてのタラヨウがあり、解説の札も立っています。
多羅葉の名前は、インドで紙が作られるまでの時代に葉面に写経された、ヤシ科のバイタラヨウ( 貝多羅葉)からきています。従って、タラヨウが社叢林に多く見られるのは経典に使われ、学識を磨くことに関わるありがたい樹木だという認識も強かったからではないかと思います。しかし、私自身はタラヨウが冬季でも枯れることなく、常に青々とした葉が生い茂るということで特別な信仰を生み出してきた常緑樹であり、鈴なりに実った赤い実が厳冬期でも美しいということから、庭園木としての価値が高いのでとりわけこぞって植えられたのではなかろうかと推測しています。
おすすめPoint
ただし、タラヨウは雌雄異株なので赤い実ができるのは雌株です。安土城考古博物館の芝生内に1本ありますが、雌の幼木です。ほぼ同樹齢で同じ筆跡の木札をつけたタラヨウが安土町内の沙沙貴神社にあるのはたぶん同じ由来でしょう。
米原市の青岸寺庭園にあるタラヨウも見事ですが、おすすめは大津市の日吉大社東本宮境内にあるタラヨウの1本は樹高が20m以上はあり、とりわけ壮大で数百年の樹齢に達しているものと思われます。大津市の円満院境内にも立派な雄のタラヨウがあり、5月には黄色の花がぼんぼり状につき、これもまた見応えがあります。これ以外にも、滋賀県内には点々と植樹されてありますので、葉をいたずらに傷つけることなく、探して、その樹の来歴を探ってみると新たな興味を呼び起こしていただけるのではないでしょうか。
周辺のおすすめ情報
日吉大社位置する坂本には、他に西教寺や竹林院、また門前町の各所でみられる穴太積などを見て歩くのもよし、また、ケーブルに乗って延暦寺・比叡山散策するもの良いかもしれません。
アクセス
【公共交通機関】JR湖西線比叡山坂本下車 徒歩15分
【車】 湖西バイパス坂本北IC下車10分、駐車場有
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(西田 謙二)
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