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登録有形文化財「橋本家住宅(旧正蔵坊)主屋」

新近江名所図会

新近江名所圖会 第160回 楽しみながら守られ続ける古庭園「旧正蔵坊庭園」

大津市
(大津市小関町)
登録有形文化財「橋本家住宅(旧正蔵坊)主屋」
登録有形文化財「橋本家住宅(旧正蔵坊)主屋」

滋賀県内には文化庁が名勝に指定している庭園が19件あり、文化財としての価値が評価された庭園は、滋賀県や市町指定のものも含むと、数は少なくありません。その背景には、歴史ある多くの寺社の存在や古都京都に隣接する滋賀の土地柄などがあると言えます。
今回御案内するのは、文化財としては未指定ですが、所有者個人と有志の方々によって、楽しみながら守られ続けている魅力ある江戸時代の庭園です。筆者は2年ほど前に初めてここを訪れ、江戸時代の書院建物と庭園が良く保存され、今も美しく活き続けているこの庭園に一目惚れしてしまいました。

旧正蔵坊庭園
旧正蔵坊庭園

庭園は、大津から山科へ抜ける古道のひとつである小関越の登り口付近にあたる大津市小関町にあります。現在は個人の私邸の庭として維持されていますが、その来歴は江戸時代にまで遡る由緒あるものです。園城寺文書によると、園城寺の五別所のひとつである微妙寺の一坊であった正蔵坊が正保元年(1644)に再興されたことがわかっています。その正蔵坊の地と考えられるこの場所には、当時の書院建物とその頃に築造されたと推測される庭園が残され、遅くとも戦前のいつの頃からか一般の住宅として継承されてきたようです。
敷地のほぼ中央に建つ書院建物は、一部に改修が加えられているものの、ほぼ当時のままに使われていて、大きな床の間や高い天井、庭園を臨む三面に設けられた縁側などに、江戸時代初期の園城寺別所の坊の風格を体感することができます。木造平屋建て、切妻造および入母屋造の桟瓦葺のこの建物の存在は、これまであまり知られてはいませんでした。しかし、平成23年(2011)に所有者の意向を受けて建物調査が行われ、当時の坊の様相を伝える希少な遺構としての価値が文化庁に評価されるに至り、平成25年3月29日、「橋本家住宅(旧正蔵坊)主屋」として国の登録有形文化財に登録されました。

書院建物と庭園石橋付近(橋本敏子氏提供)
書院建物と庭園石橋付近(橋本敏子氏提供)

庭園は、この書院の南側正面に池泉を設け、中央に石橋を架けています。石橋は長さの異なる3枚の石材からなり、遠近法を活かした奥行きを生み出しています。庭はこの石橋を境に2つの景色を見ることができ、左側に不動石と枯滝を伴う石組みで表現された天台密教の世界、右側には浮島と洞窟からなる神仙蓬莱の世界が表されていると言われています。そして、この庭園の地割りは、正保4年頃に築造されたと見られる園城寺の名勝円満院庭園に良く似ていて、正蔵坊の書院建物の建築とほぼ同時期に造られた庭であることが、その点からも窺えます。

おすすめPoint

古庭園を楽しむ音楽イベント(橋本敏子氏提供)
古庭園を楽しむ音楽イベント(橋本敏子氏提供)

このように、この庭園は江戸時代の建物と庭園が一体として良く保存され、すでに国の名勝史跡に指定されている同時期の園城寺の庭園とともに、往時の園城寺の坊の姿を知ることができる高い歴史的な価値をもつものと言えます。そして、何よりも素晴らしいことは、このような庭園が、建物とともに個人の私邸として大切に継承され、さらには積極的にその活用が図られていることです。
ながらの座・座」がその活動です。元・正蔵坊と古庭園を楽しみ守る会(代表はこの建物と庭園の所有者)が立ち上げられた「ながらの座・座」は、江戸時代から長きにわたって育まれてきた歴史的な環境を、多くの人に伝え、楽しむことを通して、守り続けていこうという取り組みです。古庭園を鑑賞しながら音楽を楽しむ「古庭園・大人ライブ」の開催は、今年10月には15回目を数え、大津界隈で開催されるまちづくりイベントの会場としても利用されるなど、多彩な催しが行われています。歴史的遺産は、それが育まれてきた地域で活かされることで、その価値が一層の輝きを増します。筆者は、所有者自らが率先して保存と活用に努められているこの活動と志に接するたび、尊敬の念が沸き起こります。
是非、みなさんも「ながらの座・座」のイベントなどを通して、江戸時代から守り伝えられてきた古庭園「旧正蔵坊庭園」の魅力を体感してみてください。

アクセス

【公共交通】JR 琵琶湖線「大津」駅 北口(びわこ口)より徒歩約15分
京阪電鉄 京津線「上栄町」駅より徒歩約7分
京阪電鉄 石山坂本線「三井寺」駅より徒歩約7分
【自家用車】名神高速道路 大津ICより5分(駐車場はありませんので、近隣の駐車場をご利用ください)

より大きな地図で 新近江名所図絵 第151回~ を表示
(大﨑哲人)

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