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新近江名所図会

新近江名所圖会 第342回 米相場を知りたければ山を見よ-近江八幡市岩戸山の旗振り場

近江八幡市
写真1 岩戸山の旗振り場
写真1 岩戸山の旗振り場

電話やインターネット、SNSといった情報伝達の手段が飛躍的に発達している現在ですが、かつては飛脚や早馬、あるいは狼煙といった方法で遠方までの情報伝達を行っていました。今回は滋賀県内に残る情報伝達の中継地点であった岩戸山の旗振り場をご紹介したいと思います。
岩戸山は独立丘陵である箕作山のピークのひとつで、南側山麓からの聖徳太子が刻んだと伝承される十三仏(※十三仏そのものは通常拝観できません)を目指し、それに伴う数多くの石仏を横目に見ながら進むルートが主な道筋になります。
さて、この岩戸山は、かつて米相場の変動を知らせる旗振り場となっていた場所でした。その手段である旗振り通信とは、江戸時代中期から明治時代にかけて用いられていた方法で、当時、全国の米価の基準であった大阪堂島の米相場をいち早く地方に伝達し、逆に地方の相場を大阪に伝えるために考案されたものでした。主に大型の旗を振る位置や回数、順序に意味をあらかじめ決めておいて情報を伝達していました。熟練者によるスムーズな旗振りが行われた場合の1回の旗振りは1分程度で、好条件下で旗振り場の間隔を3里(12㎞)とした場合には、通信速度は時速720㎞に相当するといわれています。

写真2 岩戸山から繖山を望む
写真2 岩戸山から繖山を望む

また、第三者にその内容を知られないようにするために複雑化したものや、通信する数字を実際よりも増減させることを決めておくといった対策も練られていたようです。旗振り通信は明治26年に大阪に電話が開通し、大正7年には完全に廃止されました。
滋賀県では、小関山(大津市)→安養寺山(栗東市)→旗振山(野洲市)→岩戸山(東近江市)→荒神山・佐和山(彦根市)→長浜へと伝達するルートが設定されていました(安養寺山→菩提寺山(湖南市)→行者山・相場振山(甲賀市)へと伝達するルートもあります)。岩戸山には南方に矢印が刻まれた石が残されており、約13㎞離れた野洲市の旗振山の方向を指しています(写真1)。

◆おすすめのPoint

写真3 岩戸山から湖南方面を望む
写真3 岩戸山から湖南方面を望む

旗振り場に登っておすすめしたいポイントは、なんといってもそこから見渡せる眺望です。眼前には観音寺城などのある繖山があり、視線を遠方に向けると湖西地域の比良山系や比叡山、湖南地域の琵琶湖周辺、甲賀方面までが一望できます(写真2・3)。
また、岩戸山のある箕作山の周辺には数多くの散策スポットが点在していることもおすすめする理由のひとつです。

◆周辺のおすすめ情報
山に登ってしまうと移動が大変ですが、近隣のスポットをじっくりと見て回れば1日中楽しむことができると思います。山麓からの十三仏もさることながら、岩戸山から少し登ると小脇山に至り、小脇山城として知られる山城の城域となります。城内には近世以降の構築と考えられますが、石垣も残されています。ここからさらに登ると箕作山山頂に至りますが、もうひと頑張りしていただくと、北側のもう一つのピークに織田信長による観音寺城攻略の前哨戦の場となった箕作山城が築かれています。
また、箕作山の南側には第94回でも紹介されている太郎坊阿賀神社が、北東には紅葉の隠れた名所である瓦屋寺(写真4)があります。これから春先にかけて散策に出かけてみられてはいかがでしょうか。
(小林裕季)

写真5 瓦屋寺本堂
写真5 瓦屋寺本堂

◆アクセス
【公共交通】JR近江八幡駅で近江鉄道に乗り換え市辺駅下車、徒歩約20分で岩戸山十三仏登り口
【自家用車】名神高速道路八日市IC下車約15分、岩戸山十三仏駐車場あり

所在地:近江八幡市安土町内野

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