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新近江名所図会

新近江名所圖會 第350回 鉱泉好きにははずせない―世継のかなぼう―

米原市
世継のかなぼう
世継のかなぼう

滋賀県は、琵琶湖を中心に、その源流域から河口部までのさまざまな水界が存在します。
とりわけ、米原市は県下最高峰の伊吹山の源流域から山麓、川の中下流域、平野部など、さまざまな地形環境に多様な湧水が見られる地域ですが、湖岸の集落でも豊富な湧水が見られるところがいくつかあります。
世継は米原市の西の端に位置し、集落の東には田園、西には琵琶湖が広がっています。「かなぼう」と呼ばれる自噴井戸や湧水、天野川などの川も流れ、水に恵まれた集落です。「かなぼう」とは水の湧き出ている泉とその洗い場の総称で、水源は霊仙山系に発するといわれ、地表から約50~100m掘ったところに水脈があり、年中一定の水温(約16~17℃)を保っています。水質はカナケが多く、「かなぼう」の名の由来はその水質からきているようです。茶の湯には適しませんが、上水道ができるまでは生活用水全般に使われていました。「かなぼう」の構造は、高低差をつけた水槽を設け、上の水槽から下の水槽に流していく仕組みになっていて、上の槽では飲み水やきれいなものを洗うところ、不潔なものは入れないなど暗黙のルールがありました。「かなぼう」は共同利用のもの、個人所有のもの、田の中にあって田畑の潅水用に利用されているものなど様々ですが、現在、集落で共同利用しているところは5箇所あり、出荷用の野菜の水洗い等に利用されるなど、住民の社交の場ともなっています。定期的に掃除などの維持管理がされ、正月には鏡餅やお神酒をお供えする慣習も引き継がれています。
また集落内には湖岸集落ならではの、むかしの船溜まり跡や明治期に鉄道が開通するまで使われていた運河の基点の港跡などもあります。湖岸に出ると眼前には琵琶湖が広がり、竹生島がよく見えます。

世継の案内マップ看板
世継の案内マップ看板

◆おすすめポイント
なんといってもこんこんと湧いている「かなぼう」の水とそれを使いやすく整えてあるしつらえが見どころです。水槽にこびりついている、茶色っぽいものは水に含まれる鉄分です。湧き出る水にぜひ触れてみてください。夏は冷たく、冬は暖かく感じられます。採水は可能ですが飲用には適しません。(水温17.9℃、pH :7.8、Fe:5、硬度:73.4)
◆立ち寄りスポット
《天野川と七夕伝説》
天野川を挟んで、右岸の世継にある蛭子(ひるこ)神社には朝嬬(あさづま)皇女の墓とされる自然石(七夕石)、左岸の朝妻にある朝妻神社には彦星塚とされる石塔があります。7月1日から7日の間、男性は姫宮(蛭子神社)に、女性は彦星塚にお参りし、7日の夜半に二人の名を書いた短冊を結び合わせて天野川に流すと恋が成就するといわれています。この伝説の根拠となった文書は史実に基づいたものではありませんが、地元の町おこしに活用されています。

ハス魚田
ハス魚田

◆周辺のおすすめ味どころ
《やまに》
今は、ほぼここだけとなったハス料理を得意とする郷土料理のお店。「ハス」とは琵琶湖・淀川水系および三方五湖の固有種でコイ科唯一の魚食性の淡水魚。クセのないあっさりした白身のおいしい魚ですが、小骨が多く、美味しくいただくには独特の包丁の技や調理のコツがあり、ここの得意メニューです。一般的な会席料理もありますが、ハスをメインにした川魚づくしのコースがここならではのおすすめ。ハスは年中おいしい魚ですが、漁期は初夏から夏が主なシーズンで、いつでも食べられるとは限りません。お店の営業都合等もあるので事前に予約したほうが確実です。また、天野川の河口部に立地し、店内から琵琶湖を一望できるのも魅力です。

ハス塩焼き
ハス塩焼き

◆アクセス
〔公共交通〕JR北陸本線坂田駅から徒歩約20分。JR 東海道本線米原駅から徒歩40分。
または米原駅から乗合タクシーまいちゃん号(予約制:予約センター℡:0749-52-8200)で「世継②」(世継公民館の最寄乗降場所)で下車。
〔自家用車〕名神米原ICから約15分
※「かなぼう」は普通の集落に点在します。外からの来訪者が細く入り組んだ道に車で乗り入れるのは住民のご迷惑になるので注意。世継会館(公民館)に広めの駐車場があるので車はそこに止めて集落内は徒歩で見学したほうがよいでしょう。公民館付近には説明がこってり書きこまれた楽しい集落の案内看板があるので必見です。

◆参考文献
・米原市経済環境部環境保全課『スローウォーターなくらし―未来に受け継ぐ水源の里まいばらの水文化—』(2012)
・『関西地学の旅④ 湧き水めぐり1』(2006)湧き水サーベイ関西
(小竹志織)

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