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新近江名所図会
新近江名所圖會第236回 昔の姿に思いを馳せる-大津市北小松港-
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「街道をゆく」で司馬遼太郎が最初に訪れたのは大津市の一番北、琵琶湖西岸の小さな港町「北小松」です。司馬の紀行文は、北小松港が古代に朝鮮半島との関わりのなかで設けられた港で、「高麗津(こまつ)」の名残りではないか、また「白髭(しらひげ)神社」は「新羅(しらぎ)神社」ではないか、というところから始まります。
内水面の琵琶湖に設けられた小さな港が、実は国際的な視野を持って見なければならないほどの歴史を抱えているというのです。写真1はその1,000年をゆうに超える歴史を積み重ねてきたかもしれない北小松の港の現在の姿です。琵琶湖に突き出すように設けられた防波堤に囲まれた一画が現在の北小松港です。
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昭和47年から平成9年にかけて行われた琵琶湖総合開発によって、琵琶湖の湖岸の姿は大きく変わりました。総合開発による水位の変動に対応するために湖岸堤が作られ、多くの港は造り変えられました。しかし、水深が深い北小松港は大きな改変を必要とせず、琵琶湖総合開発では造り変えられることはありませんでした。では、港は昔から姿を大きく変えずに現在に至っているのでしょうか。
そうではありません。時代をさらにさかのぼり、明治24年の地図(写真5)には琵琶湖に突き出た今の港はありません。代わって集落の中に入り込んだ細長い船溜まりが描かれています。
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この船溜まりがかつての北小松港でした。北小松港は自然地形の小さな内湖をうまく利用して築いた港だったのです。この場所は今も建物が無く、周りの建物よりも一段低い広場となっています。航空写真を見てもその場所がわかります。昭和36年の写真(写真4)ではまだ水が入っています。昭和50年の写真(写真3)には円形の養殖池が設置されていた様子が写っています。
では、この港が司馬遼太郎の思いをはせた1,000年以上の歴史を積み重ねてきた北小松港なのでしょうか。
その答えも「そうではありません」です。近年、琵琶湖の一番北の港「塩津港」で発掘調査が行われ、そして900年前の港が見つかりました。琵琶湖の中で最も栄えた幻の港「塩津港」が見つかったのです。重厚な護岸を備え、京都にも見劣りしないほどの栄華を誇った港が見つかったのですが、問題はその場所です。現在の地面から4ⅿも下から見つかったのです。
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標高は83ⅿです。現在の琵琶湖の水面よりも1.5ⅿも低いのです。現在の基準水位は洗堰で人工的に調整されているものなので、設置前の平均水位と比べるともっと低くて2ⅿ以上も湖面より低いのです。小松港も塩津港と同じ条件なら、1,000前かつて栄華を誇った港はもう琵琶湖の底、奥深くに沈んでしまっていたことになります。
(横田洋三)
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アクセス
【公共交通機関】JR湖西線北小松駅下車 琵琶湖に向かって歩いて5分
【自家用車】 湖西バイパス終点から約10分