新近江名所図会
新近江名所圖會第237回 高島の石仏スポット-高島市玉泉寺-
現在もお寺はもとより、集落の道端や路地裏などに自然と風景にとけ込んでいる「お地蔵さん」を見かけることがあります。少し意識をしてみると、こんなところにも!?という場所にまで、実にたくさんのお地蔵さんが安置されていることに気付きます。今回はそんな「お地蔵さん=石仏」が数多く存在する、高島市安曇川町田中にある玉泉寺をご紹介したいと思います。
玉泉寺は天台宗真盛派の寺院で、西方浄土の信仰対象となっている阿弥陀山の山麓寺院のひとつです。開創は奈良時代の天平年間に行基によるものと伝承されます。その後、享禄4年(1531)に大火に遭い寺地の多くが消失しましたが、天文2年(1533)に田中城城主であった田中下野守理春が荒廃を嘆き、坂本の西教寺の管主を招いて再興したと伝えられています(写真1)。
おすすめポイント
注目したいポイントは、境内やこれに続く墓地内に大小さまざまな多くの石仏が立ち並んでいることです。墓地の前にある五智如来は室町時代後期の作とされ、高さ1.5m前後の大きさを測る5体の丸彫り坐像です(写真2)。大日如来を中心に、阿弥陀如来、薬師如来、弥勒菩薩、釈迦如来が並び、天台密教思想を表現しています。近江名所圖會第24回で紹介されている鵜川四十八体石仏と同じ石工集団が造立したものと考えられています。普段見かける一般的な「お地蔵さん」よりかなりサイズが大きく重厚でありながら、一方で少し扁平気味に作られているため、独特な迫力を感じます。
次に、墓地への入口となる鳥居をくぐってすぐのところに、光背部分までを含めて高さ約1~1.5mの十一面観音や千手観音といった大きな六観音が並び立ちます。さらに行くと1体を不足していますが、六地蔵と呼ばれる高さ約1.5mの地蔵菩薩が続いて並びます。このほか、墓地内のいたるところに一般的なサイズの「お地蔵さん」が集められています(写真3)。しかし、そのバリエーションは豊富で、多様な姿をしています。数えてはいませんが、その数はゆうに100体は越えていると思います。多種多様な石仏を見ることができる玉泉寺は、高島では指折りの石仏スポットといえるでしょう。(※石仏は墓地内にあります。見学の際はマナーに配慮をお願いします。)
周辺のおすすめ情報
玉泉寺の近くには43基以上からなる田中古墳群があります。田中古墳群の北端には、墳長約58mの帆立貝形の墳形をもつ田中大塚古墳があります(写真4)。田中大塚古墳は継体大王の父である彦主人王(ひこうしおう)の古墳として陵墓参考地に指定されています。また、平成19年(2007)に発掘調査された田中36号墳は、当初は木棺直葬と推測されていましたが、調査により横穴式石室をもつことが明らかとなり、その構造から九州地方との関わりも指摘されています。実はこの田中36号墳は、私が学生時代に発掘調査に参加していた古墳で、考古学の世界へ足を踏み出しかけた時期であったため特に思い出深い遺跡です。調査原因となった道路建設も少し計画が変更され、石室そのものは土の中に現状保存されています。(小林裕季)
アクセス
公共交通機関:JR湖西線安曇川駅から徒歩約30分
自家用車:大津方面からは国道161号西万木交差点を左折、約10分(駐車場あり)
所在地:高島市安曇川町田中3459